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- ID:
- 23675
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0307
- 見出し:
- 生命の森へ- 樹木を「解体」 薪と餌の一石二鳥
- 新聞名:
- 産経新聞
- 元URL:
- http://sankei.jp.msn.com/life/news/120305/trd12030511530010-n1.htm
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- コーン、コーン、カツーン。冬の早朝。猟師たちが薄暗いうちから山小屋の外で薪(まき)割りをしている。エゾマツやシナノキの大木に囲まれたビキン川上流の谷に、薪が割れる小気味いい音が響く。おので割られた木々が白いきれいな木目をさらして転がり、薪小屋の前に山ができている。
薪割りはいわば樹木の「解体」だ。伐採した丸太をノコギリで玉切り(輪切り)にし、おのでストーブに手頃な太さに割って燃料にする。タイガの小屋や村の家でも料理や暖房は薪が頼り。手を抜けない仕事だ。
寒い中ずいぶん熱心だなと思いつつ近づくと、どうも普段の薪割りと様子が違う。直径30センチ弱のトドマツを割るごとに断面をのぞき込んでは、丁寧に何かを取り出している。
ちょうどセルゲイが目当てのものを探し当てた。つまみ出したものを見せてもらう。と、それは長さ4センチほどのカミキリの幼虫だった。
SNAKEI_EXPRESS__2012(平成24)年3月3日付EX(16、17面(見開き))
「食べる?」
セルゲイが笑って差し出す。
一瞬、冗談か本気かわからない-。
■シーン2 凍てつく川に穴開け…痛快な釣り
けげんな顔をしていた僕に、セルゲイはニヤリとして足元のお椀(わん)を指さした。「釣りの餌だよ」
そこにはもう20匹くらいの幼虫がためられていた。釣りの餌探し、そして薪(まき)割りの一石二鳥というわけだ。
朝飯を食べてから、今日は釣りに行こうという話になった。スノーモービルの荷台にまたがり、凍ったビキン川を下る。森から続くシカの足跡が凍った川を交差し、また森に入ってゆく。いくつ足跡を越えただろう、顔が寒風で凍りつきそうだ。不意に支流に入ると小さな丸太小屋があった。
「チャイ(お茶)だ」
SNAKEI_EXPRESS__2012(平成24)年3月3日付EX(16、17面(見開き))
冷え切った小屋に入り、さっそく薪ストーブでお茶をわかす。パンとベーコンを切る。そうこうしている内に手のあいた猟師がわずか30センチほどのさおを手に、裏の川へ向かった。
猟師たちは村の家に居るときはのんびりしているが、タイガではまったく手際がいい。雪や寒さの中でも体を動かすのをいとわず本当によく働く。というより自分たちしか頼る人がいないタイガでは、さもなければ何もことが進まないのだ。
僕は釣り好きで北海道で冬のワカサギ釣りもするが、凍った川のどこに魚がいるのか、そもそも真冬に餌を食べるのか、いまひとつピンとこなかった。
小屋裏の支流は川幅がわずか3メートルほどだったが、驚いたことに猟師はドリルで開けた小さな穴から次々に30センチを超えるコクチマスを釣った。そんな大きな魚が、凍(い)てついた小さな川に潜んでいるとは…。そして餌は今朝薪割りしつつ集めたカミキリの幼虫だ。
SNAKEI_EXPRESS__2012(平成24)年3月3日付EX(16、17面(見開き))
痛快な釣りだと思った。
木の幹で越冬中の虫を餌にして、凍った川から魚を釣り上げる-。彼らにとって何ひとつ特別なことではないが、外から眺めているだけでは見えないものを、ともすれば凍えるばかりの冬の風景の中から猟師たちは見事に引き出し、生きる糧を得ているのだった。
釣り上げた魚はブルッと雪の上で跳ね、やがてカチカチに凍りついた。コクチマスの瞬間冷凍のできあがりだった。(写真・文:写真家 伊藤健次/SANKEI EXPRESS)
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■いとう・けんじ 写真家。1968年生まれ。北海道在住。北の自然と土地の記憶をテーマに撮影を続ける。「タイガの森フォーラム」呼びかけ人としてビキン川流域の自然や現地の声を届けている。ロシア沿海地方、千島、サハリンなど環オホーツク圏を旅し、家庭画報(世界文化社)に連載した「トワトワト
北海道-星と原野の自然へ」が出版予定。著書に「山わたる風」(柏艪舎)など。
SNAKEI_EXPRESS__2012(平成24)年3月3日付EX(16、17面(見開き))
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≪「タイガからのメッセージ」上映会≫
生命あふれる森タイガで、先住民族ウデヘの暮らしを追いかけたドキュメンタリー映画「タイガからのメッセージ」(三上雄己、木村輝一郎監督)の上映会が行われます。
<日時>
3月13日(火)19:00~、3月28日(水)15:00~、4月20日(金)19:00~
<入場料>2000円(事前予約&前払い制)
<場所>神楽サロン2階。東京都新宿区市谷田町3の13 神楽ビル
<申し込み・お問い合わせ>
info@kagurasalon.Com (電)03・6265・0580
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