v10.0
- ID:
- 49362
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0105
- 見出し:
- 潜入せよ!:体験わかやまの伝統
- 新聞・サイト名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/area/wakayama/news/20110104ddlk30040171000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 下から上まで同じ太さの杉の木が、青空に向かってまっすぐに伸びている。左手にカマを持ち、私(男、45歳)はその木に登っていく。体を支えるのは、直径10センチの木と、直径約5センチの1本足のはしご。高さ約2メートル。一段登るたびに体が左右に揺れる。根元は高さ約50センチの下草が茂って地面
が見えず、恐怖が増した。
古座川町七川の山の斜面で、枝を落として節のない高級材にするための枝打ちを体験した。林業の南真次さん(57)=同町添野川=が10~20年かけて大切に育て、建築材として出荷する木々。林業体験といえば、日当たりをよくするために木を間引く間伐が多いが、南さんは「いきなり間伐から入ると、
木に対する愛情がわかない」と言う。
枝打ちは木の下の方から。日光が当たる上部は枝葉を残し、木が成長する力を保つ。高さ4~5メートルの木と並行して、1本足のはしごを垂直に立て、枝の位置まで登る。はしごが接触しないよう、木との間に片足を挟んで一段ずつ上がるなど、木を傷めないために細心の注意を払う。
地上2メートルを超えたところで、枝打ちに挑んだ。とにかく幹を傷つけてはいけない。幹にカマを当て、枝葉だけをサッと切り落とした。切り口は10円玉のように真ん丸。成功だ。時間がたてば樹皮が切り口を覆い、つるつるになって節が残らない。枝葉の下の幹の部分まで切ってしまったら失敗だ。傷口が腐っ
て変色し、商品価値が落ちてしまう。南さんの指導で私は約2時間半、枝打ちした。
南さんは、0・7ヘクタールの山に4種類の杉約5000本を植えている。高い木で15~20メートル。一人ではしごを登ったり降りたり、一本ずつ手作業で枝打ちする。気が遠くなる話だ。南さんは「この木で家を建ててほしい」と消費の拡大を期待する。住宅メーカーは外国から安い木材を仕入れる。企業の論
理では仕方がないとはいえ、家を建てる人が木材の産地に無関心なことに南さんは心を痛める。
京都の街で育った私は、林業に接する機会はなく、国産材への思い入れもなかった。住宅を買うとしても、「どこの木を使うのか?」とは考えないだろう。しかし、枝打ちを体験し、気持ちは変わった。私をしっかりと支えてくれた細い木。ツンと来る樹皮のにおいは生命力を伝えてくる。今年は田辺市で全国植樹
祭が開催される。木を植えるだけで終わらせず、愛着をもって育てる心も芽生えるか。注目したい。
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