v10.0
- ID:
- 50865
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0629
- 見出し:
- 安くて簡単なエネルギー――地域に供給する“熱”とは
- 新聞・サイト名:
- Itmedia
- 元URL:
- http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1106/28/news037.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 今後、日本のエネルギー政策はダイナミックな変革を迫られる。原発のあり方が根本的に問われる今、省エネや代替エネルギーは文字通り待ったなしの課題。短期的にはこの夏を乗り切る節電、中・長期的にはさらなる省エネ技術や再生可能エネルギー開発が重要となる。
しかしながら日本の動向を海外からみていると、大きく欠けた部分のあることに気付く。電力については議論が多いのに、それと対をなす熱利用の話が抜け落ちているのだ。例えば火力発電所は多くのエネルギーを廃熱として捨てているが、これを有効利用すべきではないか。実は、最も安上がりで簡単に利
用できる再生可能エネルギーは廃熱という言い方さえできる。
今回はドイツのエネルギー政策のキーワードとなっている熱利用、特に地域熱供給とコジェネレーションにスポットを当てたい。
40%から90%へ
火力発電所で石炭・ガス・重油といった1次エネルギーを燃やして発電すると、どうしても約6割のエネルギーを廃熱として捨てなければならない。自家消費分はたかがしれているし、近隣に工場や温水プールがあれば廃熱を利用できるが条件はかなり限られる。
そこでコジェネレーション(熱電併給)が注目を集めている。発電しながら熱を有効利用するコジェネレーションは、大規模なものは大型火力発電所、中規模には地域分散型のバイオマス・コジェネレーション施設、小規模になれば集合住宅や事業所用のミニ・コジェネレーション設備までバラエティーに富む。
それらを統合すると、今度は大規模な熱供給のネットワークが構築できる。火力発電所のコジェネレーションに加え、ゴミ焼却場やコンビナートの廃熱を統合管理し、温水として市街地や工場地帯に循環させるエネルギーインフラが地域熱供給だ。大規模な地域熱供給になれば数十万の人口を抱える都市
をカバーし、木材99 件チップを利用する中規模コジェネレーション施設ならば隣接する住宅地や小さな村で活用できる。コジェネレーションや地域熱供給により90%のエネルギー利用が可能となり、大きなCO2排出削減効果が得られる。
コジェネレーションと地域熱供給は省エネの核心的技術として重点整備され、再生可能エネルギーと同等に助成対象となっている。
中央集中型の電力供給(上)から、中規模コジェネレーション施設を活用する地域分散型の電力・熱供給(下)へ(出典:カールスルーエ市エネルギー・水道公社)
図の解説
上:大規模発電所による通常の電力供給1次エネルギー(石油・ガス・石炭・原子力・バイオマスなど)を使って発電すると58%が廃熱、2%が送電ロスで失われる。消費者に供給できるのは40%のみ。
下:地域分散型のコジェネレーション施設によるエネルギー供給
1次エネルギー(理想はバイオマス)を使って発電し、電力として30%、熱も60%を消費者に供給できる。大型火力発電所に代わり、バイオマスを使用する中型コジェネレーション施設を需要地の近くに数十ヶ所建設するればエネルギーの利用効率は格段にアップする。
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都市をカバーする熱の供給網
地域熱供給の例として筆者の住むカールスルーエ市のエネルギー・水道公社が運営する地域熱供給を見てみる。
人口約28万の同市では市街地にある2万3000軒の住宅と、1200カ所の工場・事務所・公共施設が地域熱供給システムに接続している。約20気圧で送り出された75~130度の温水は、消費側で熱交換され低温水となり、また戻ってくる。断熱材に覆われた全長150キロメートルの配管が、ガス管と同様に市
街地を網羅している。
まずは1992年にライン川港湾の大型火力発電所から熱供給が始まり、2010年からは石油コンビナートも供給側としてシステムに組み込まれた。
消費側は暖房・給湯に使用した熱量分の料金(1KWhあたり5セント〈4円〉)と月々の基本料金(7ユーロ:約800円)をK公社に支払う。平均的な世帯で年間850ユーロ(約9万7000円)程度の負担となり、これは灯油を使用する暖房・給湯費用よりもかなり安い。経済性だけでなく、各建物に個別のボイラーを設
置しなくてよいためスペースの節約にもなる。
他方、火力発電所やコンビナートにとっては消費者が熱を使えば使うほど都合がいい。戻ってくる水の温度が低いほど冷却効率が高まり省エネになるからだ。また、廃熱は本来、費用をかけて処理(放出)しなければならないゴミだから、それが売れれば願ったりかなったりだ。
火力発電所から市街地へ延びる温水送水の本管。常に送水管と戻し水管の2本がセットとなる(左)、建物に備え付けられる熱交換装置(右)。上の送水管(左)から高温水を取り込み、熱交換器(2)で熱を取り出し、下の戻し水管で送り返す。使用した熱量を測るメーター(3)も付いている。敷地内の配管敷
設と熱交換装置の設置は建物の所有者が自費で行う(出典:カールスルーエ市エネルギー・水道公社)
コジェネレーション
大型火力発電所のコジェネレーションに比べると、集合住宅や事業所、あるいは公共施設に設置する小型コジェネレーションの規模はだいぶ小さい。発電出力1~50kW、サイズは大型洗濯機くらい、重量200~300kgのものをドイツではミニ・コジェネレーションと呼ぶ。
本体価格と設置費は2万~2.5万ユーロ(約230万~286万円)と省エネボイラーの倍かかり、メンテナンス費用も高いが、その代わり多くの州や自治体で設置助成制度がある。例えばカールスルーエ市は1kW当たり250~700ユーロ(約2万8000~8万円)を助成し、発電出力20kWの設備なら1万ユーロ(=5
00ユーロ/kW×20kW)になる。
さらにコジェネレーション法により電力買い取り価格(5.11セント〈4円〉/kWh)が保証されているので、余剰電力はすべて売電することができる。天然ガスやプロパンガスを使用するコジェネレーション電力はエコ電力ではないが、エネルギーの利用効率を向上させCO2の排出削減に役立つため、このように手
厚い助成が行われる。購入・設置・メンテナンス・燃料購入費をトータルで考えると、ミニ・コジェネレーションの導入により20%程度のコスト削減が可能だ。
ミニ・コジェネレーションより小型(発電出力1kW以下)のものをマイクロ・コジェネレーションと呼び、これは戸建住宅にちょうどいい。この規模だと熱出力は6kW程度になる。これまでこのクラスは技術的な問題で実用化が遅れていたが、最近になりやっと市販されるようになった。マイクロ・コジェネレーションには、
わずかな熱を動力に変えるスターリング・エンジンを用い、この内部にヘリウムが充填(じゅうてん)されている。心臓部ともいえるこの部分の気密保持が難しく、以前、日本の大手メーカーが開発に乗り出したこともあるが実用化には至らなかったようだ。
カールスルーエ市の地域熱供給網。左を流れるのはライン川。川の港湾地帯に大型火力発電所、川沿いに石油コンビナート(MIRO)がある
災害にも強いミニ/マイクロ・コジェネレーション
Holz-
BHKW-Vaubanドイツ南西部の都市フライブルクにある中規模の木質バイオマス・コージェネレーション施設。発電量:1406MWh、供給熱量:5511MWh、二酸化炭素排出削減量:1万6771t、木材バイオマス(チップ)の消費量:2万6000m3(いずれも年間)。およそ1000人が家庭で消費する年間電力と、1000世
帯の暖房・給湯熱を供給できる
日本で2006年にパイロットプロジェクトとして建設された発電出力1万kW級の木材バイオマス発電所を見学したことがある。地元の木材チップを使い発電効率は高いが、地域熱供給システムは組み込まれず、残念ながら年間数億円の赤字を出し続けている。CO2排出削減の意義はあっても、それだけでは同
様の施設を他に建設する魅力に欠け、発展性もない。地域温水供給システムを作ればいいが、今のところそういうアイデアも社会的な仕組みもない。
日本とドイツの暖房・給湯エネルギー需要は異なるが、日本でも熱利用のあり方を考え直すべき時期に来ている。エネルギー利用効率の観点からみれば、火力発電所で作った電力を暖房・給湯に使うようなオール電化社会は大変な無駄遣いだ。
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