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「いつかは祖父のような船大工になりたい。寺社仏閣や遺跡と同じように、木造船のある琵琶湖の景観も、滋賀の財産だと思うんです」。夢の実現に向かって、今年も工場で木材と向き合い続ける。
- ID:
- 49347
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0104
- 見出し:
- ウバメガシ増やせ
- 新聞・サイト名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/wakayama/news/20110102-OYT8T00441.htm
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 「あの山の木が全部、ウバメガシやったらね」
田辺市中辺路町で、土山徹さん(36)は山を指さしてつぶやいた。
8年前、炭焼き職人の修業を始めた土山さんが驚かされたのは、原料となるウバメガシの少なさだった。スギやヒノキの生える人工林には生えず、植林できない険しいがけや、奥深い山にしかない。「炭を焼くことよりも、木を切り出すことよりも、まず木を見つけることに苦労する」と苦笑する。
水分が少なく、堅いウバメガシは高密度の炭となり、安定した火力が長時間持続する。紀州備長炭には欠かせない存在だが、県木にもかかわらず、県が10年前に行った調査で県内の生育面積はわずか2135ヘクタール。スギ・ヒノキなどの針葉樹の100分の1にとどまる。
成長が遅いのに、戦後、急速に伐採されたことに加え、1990年代前半から、脱臭や水や米をおいしくするといった備長炭の効果に注目が集まり、減り続けていた炭の生産量が少し回復したことも、原木不足に拍車をかけた。
炭焼き職人らは、林業者らから生えている場所の情報を得ては山の持ち主と交渉し、苦労して深い山から木を切り出す。
6年前、修業を終えて独立した土山さんも、原木探しに苦労していた。そんな時、みなべ町で代々炭焼きを続ける原正昭さん(40)の山を訪れ、伐採後の木の様子に違和感を感じた。
一つの株から複数の幹が伸びるウバメガシの一番細い幹だけが切らずに残され、2メートル程の高さで頼りなげに揺れていた。
高さのある若い幹を残すことで、成長が遅いために他の草木に日光を奪われることを防ぎ、切り株から出るひこばえの成長を促す「択伐」と呼ばれる手法。
「こうすることで、木は再び育ち、何年も先にまた伐採できる」
原さんから初めて教えられた土山さんは、驚きと共に、「同じ山で再び木を切ることはない」と思っていたことを恥じた。
「都会からIターンで来た炭焼き職人が増え、炭の焼き方は習っても、昔から伝わる山とのつきあい方を知らない人が多くなっている」と、県林業振興課の大澤一岳さん(38)は話す。
危機感を強める県は、択伐や苗木の育て方を、ベテランが若手に伝える「やまづくり塾」を2009年から始めた。受講者の中には、数年前から見よう見まねで択伐に取り組む土山さんの姿もあった。
昨年12月、土山さんは、2年前に木を切り出した山へ足を運んだ。スギの生い茂る薄暗い森を抜け、小道すらない山を登ると、太さ5センチ程のウバメガシが見えた。
頼りない幹には青々とした若葉が顔を出し、足元には小さなひこばえ。わずかな変化だったが、土山さんの顔には笑顔が広がった。
「20年後、この山がどうなっているか。とても楽しみだ」
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