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- ID:
- 45822
- 年度
- 2010
- 月日:
- 0428
- 見出し:
- グローバル時代を生き抜くヒントは、生物にあり
- 新聞・サイト名:
- 日経ビジネス
- 元URL:
- http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100423/214156/?P=3&ST=spc_bi
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
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次は人育ての話です。動物ばかりではなく、植物からも学ぶべきことが沢山あります。そこには人育てのヒントが隠されています。例えば、「つるぼけ」という現象があります。キュウリやカボチャ、サツマイモといった蔓性の植物は、あまり肥料をやりすぎると、つるや葉ばかり伸びてしまい、肝心の実が大きくなりま
せん。むしろ、時には厳しい環境に置いた方が生き残ろうとする本能が働き、良い実をつけようとします。
青森のあるリンゴ農家は、農薬を使わずに非常に甘くて風味の豊かなリンゴをつくることで知られています。特徴的なのは、下草を刈り取らずに、草ぼうぼうの環境で育てていることです。雑草や昆虫が多い環境で育てるのは、農業の常識とは正反対だと言っていいでしょう。この農家の人が言うには、自然の
ままの状態にリンゴの木を置くことで、他の植物と共存し生き残ろうという本能が働き、おいしい実がなるそうです。
これらの二つの話には大きな教えがあります。人育ても同じことで、栄養を与えすぎたり、過保護になったりすると、かえってうまく育ちません。まさに「かわいい子には旅をさせよ」ということわざの通りなのです。
企業の人材育成も同じで、似たような人材をそろえるのではなく、異質な人材を共存させ、互いに切磋琢磨させた方が、人も組織も強くなります。同質なイエスマンばかりでは、企業は弱っていくばかりでしょう。
植物の連作障害も人間に当てはまります。この障害は、ある作物を同じ土地で繰り返し育てていると地力が低下し、発育不良になったり病害虫が発生したりする現象で、ジャガイモなどでよく起きます。人間も同じ環境で同じことを繰り返しやっていると、視野が狭くなってしまいますし、やる気も損なわれます。
どの果樹にも言えることですが、豊作はいつまでも続きません。実がたわわになった「生り年(なりどし)」の翌年は、「裏年(うらどし)」といって不作になることが多いのです。人間も仕事も組織も同じで、伸びっ放しということはありません。時には一息入れてエネルギーを蓄え、次なる成長に備えることも重要です。こ
のように見ていくと、我々人間は植物から学ぶべきことがたくさんあります。
多様化を基軸にグローバル化へ対応せよ
もう一つの教えは、マネジメントのあり方に関するものです。世界がグローバル化する中で、ますます世の中は多様化の方向に進んでいます。かつて20年ほど前にグローバリぜーションが盛んに叫ばれた頃には、世界は同質になり、均一化していくだろうとの主張が少なからずありました。現実はどうかとい
えば、むしろ逆の方向に進んでいます。
ここで改めて考えておきたいのは、多様化とは何か、ということです。それは、異質なものがつながって、新しいものを生み出していくことだと私は思います。だから企業は多様性を基本に置き、もっと異質なものを上手につなげていくマネジメントをすべきです。
しかし現実を見ると、企業は「個性を重視する」「異質を歓迎する」と口では言う一方で、現実には出る杭を打つように同質化を進めています。
そうすることで従来のルールに沿ってコスト競争や効率化を進めることが、企業にとっては有効なのかもしれません。でも、それでは新しい質、新しい価値の創造はあり得ません。同質と同質を組み合わせても、増えるのは量ばかりで、決して質は高まらないのです。
一方、多様化した世界では異質なものが共存するので、異質同士をどう組み合わせていくかが問われます。異質なものを上手につなげなければ、新しい質、価値は生まれませんし、社員も会社も変わっていけません。
最後に強調しておきたいのは、生物多様性の中に潜在するダイナミズム、すなわち自然界の根源にあるデュナミス(可能力)、そしてエネルギー(活動力)です。このダイナミズムを多様性の中から引き出さねばなりません。
そう考えれば、生物多様性とは企業にとって、生きる力の源(みなもと)であり、同時に知の宝庫なのです。私たちは企業社会からだけでなく、もっと高い位置から大自然に目を向けるべきです。そして企業は大自然から謙虚に知を学び取り、大自然の中の生命(いのち)のつながりの一部となって新しい世界を
切り開いていくのです。そうなってこそ、本当の意味での「生物多様性の年」になるはずです。
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