v10.0
- ID:
- 46418
- 年度
- 2010
- 月日:
- 0615
- 見出し:
- 木と話し刃入れる 狙いは、樹齢55年前後の尾鷲ヒノキ
- 新聞・サイト名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://mytown.asahi.com/mie/news.php?k_id=25000001006140001
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 37天然乾燥にこだわる製材業 谷口晴泰さん(34)
■ロスジェネ第2章■
◇◆木と話し刃入れる◆◇
狙いは、樹齢55年前後の尾鷲ヒノキ。
5月13日正午、谷口晴泰さん(34)と父・勝則さん(70)は、尾鷲市の木材市場の競りに加わっていた。落札したのは計31本、16万円。晴泰さんは「久しぶりにいい木が入った。今からひくのが楽しみですわ」と顔をゆるめた。
「ヘラ」という鉄製の長いノミのような道具を手に持って丸太の皮をはぐ。製材機に丸太を置き、ゆっくり刃を入れていく。経験と勘、センスが試される瞬間。丸太の位置が変われば、思ったような材の表情はまず出てこない。
こだわりは、昔ながらの天然乾燥だ。乾燥室なら2週間前後で済むが、天然乾燥は早くて半年。「でも、見た目の輝きが違う。木のアブラが失われず粘りがあるんさ。実証はされていないが強度も間違いなくある」
製材業の長男に生まれ、人一倍、木に親しんできた。高校3年の時、1カ月間、社長の勝則さんを手伝い、丸太の皮はぎをした。「あんたんとこの木、使って良かった」。客からそう言われる父を尊敬し、家業を継ぐ決心をした。
「ヒノキだけでなく、いろいろな木を見たい」と名古屋の木材加工会社に就職。25歳で故郷に戻った。数年後、近所の家が新築する時、自分が製材したヒノキを選んでくれた。「どんな木を使っているか知っているからね」。施主の言葉は今も忘れない。「歩む道は間違っていなかった」と思う。
だが、木材価格は低迷。天然乾燥で手間をかけても、人工乾燥したものとの価格差に結びつかない。5、6年前からは赤字経営が続く。
結婚もしたいが、次々廃業していく同業者をみると、言葉を失う。「こだわり過ぎるのも良くないけど、自分が自信を持てる木を作りたい。ええものは理屈なくええものなんです。そんな仕事に携われるだけでうれしいんです」
製材機に木をがっちり固定しても、刃を入れると、微妙に木は動く。小細工は通用しない。素直に年輪の中心に刃を当てることに集中する。
将来の3代目も、今は勝則さんに頭が上がらない。よく言われる。
「木と話せ」
(百合草健二)
■母・豊子さん(61)
母・豊子さん(61)の生活の励みは、自宅近くにある家庭菜園。「周りは大変って言うけど、旅行やカラオケなんかやるより、畑に行ったほうがよっぽど楽しい。自然の力ってすごいし、おもしろい」
名古屋で医療品製造販売会社に住み込みで働いた後、25歳で勝則さんと結婚。本格的に野菜づくりを始めたのは、晴泰さんが生まれて間もないころだ。
元々、農家の娘として育ち、親の農作業を手伝ってきた経験が生きている。周囲には休耕田が目立つが、借りた畑約800平方メートルを一人で耕す。今ならソラマメ、エンドウ、キャベツ。夏はナスにピーマン。一年中何かをつくる。
家事や製材所の掃除、支払伝票の照合など忙しい合間に、ほぼ毎日、畑に足が向く。採れた野菜は近所の人や知人に分けている。売り物にはしない。売ってほしいと言われても売らない。「『おいしかったよ』と言ってくれれば、またそれが励みになるんよ」。
◆子の思い出◆
いつかは家族旅行
「家族旅行には、いまだに行ったことがないんです。2、3年前に家族みんなで話し合って、1泊2日で行くことになったけど、結局、酒飲みの父さんの扱い方で立ち消えになってしまった。実はまた、姉と計画しているんです」(晴泰)
「私もお父さんも車の免許がなかったから、遠くに遊びに行かせることができなかったの。晴泰が幼い頃は、畑に一緒に連れて行って、チョウチョを取ったり、イモリを捕ったり1人で楽しんでいたね。旅行の話は、晴泰からあったけれど……。日帰りくらいならねえ」
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