v10.0
- ID:
- 46232
- 年度
- 2010
- 月日:
- 0602
- 見出し:
- 考・コンクリートから人へ (上)
- 新聞・サイト名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://mytown.asahi.com/tokushima/news.php?k_id=37000001006020004
- 写真・動画など:
- 【図・表 】
- 記事内容
- ◆建設から林業へ福祉へ
5月下旬、那賀町の山奥で、10人の男たちが間伐用の機械を囲んでいた。全員、建設会社の社員。重機で木を持ち上げ、カッターで切断する。日ごろ使う重機と違う操作に、やや戸惑っていた。
◇
県が開いている林業研修の一コマ。建設の分野で働いてきた人たちを、担い手不足が著しい林業に振り向けようという狙いで、昨年始まった。
2008年に県内で道路やダム、施設建設などに投入された公共事業費は、ピーク時(1998年)の4割に減少。09年の倒産で最も多かったのは建設業で、全体の45%を占めた。そんな中、無駄な公共事業をなくそうと「コンクリートから人へ」を掲げた鳩山政権が誕生した。
県が心配したのは、失業者の増加に拍車がかかることだ。建設業で働く人は県内に約2万8千人(06年、総務省調べ)。10年前に比べ3割減っている。転業・転職を促す林業研修は来年3月までに延べ1千人が受ける。
木頭森林組合(那賀町)には、4年間で20代の10人を含む15人が就職。9人を「元建設業」の人が占める。
1月に就職した中村健太さん(25)=那賀町和食=は3年前、建設会社から一斉解雇された。職安や知人のつてで仕事を探したが、配管工事などの短期がほとんど。収入の足しに知人宅の草刈りまでやった。「仕事安定してないのに、いけるんか?」。2人目の子を妊娠した妻の機嫌が日ごとに悪くなった。
森林組合が求人を出している、と聞いた。きつそうで気が進まなかったが、とにかく定職につきたかった。面接で採用され、子どもも無事生まれた。「明日も、明後日も、仕事がある。嫁さんが一番喜んでくれている」
森林組合が若者を採用できるのは、林野庁の「緑の雇用事業」があるからだ。新規就業者1人につき平均200万円程度の補助が出る。だが、同事業は今年度が最後。間伐だけで利益を出すのは難しく、木頭森林組合の中西泰志参事(50)は「若い人がほしいが、補助がないと雇えない」と事業の継続
を願う。
◇
もう一つ、雇用の受け皿として期待されるのは「介護」。96年からの10年で「福祉・介護」分野の従事者は2倍に増えた。少子高齢化を背景に、高齢者介護サービスのニーズが高まっているからだ。
民間の無料職業紹介所「ジョブとくしま」には2年ほど前から、ヘルパーや介護福祉士の資格講座への申し込みが殺到している。「元建設業」も多い。講座の回数は年1回から2回に、定員も25人から30人へ増やしたが、倍以上の応募があった。
資格講座を受けている乾禎之さん(44)=吉野川市鴨島町=は、20年近く鉄筋工や大工をしてきたが、仕事がなくなった。短期のバイトなどを半年続け、昨年11月に講座を知った。「相手が人だから、精神的な面で気を遣うね」。バリアフリー住宅のアドバイザー資格も目指す。
しかし、全く性質の違う分野への転身は、必ずしも簡単にはいかない。
「建設現場と同じような大声で話して、お年寄りがびっくりしてなじめないケースもある」と県労働者福祉協議会の東条恭子・事務局次長。排泄(はい・せつ)の介助に耐えられず半日でやめた人、定員からあふれて講座を受けることさえできない人もいる。
東条さんは「もっと多くの種類の受け皿が必要ではないか」と言う。
「コンクリートから人へ」。民主党は、参院選のマニフェストからこの言葉を削るという。コンクリートの公共事業は減らせるのか、減らすとどうなるのか。県内の実情を2回にわたり報告する。
..