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- ID:
- 49330
- 年度
- 2010
- 月日:
- 1231
- 見出し:
- 「福井の桐油」復活だ アブラギリ種搾り 手探りの挑戦続く
- 新聞・サイト名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukui/news/20091231-OYT8T00720.htm
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 関西の電力需要の半分近くを支えるエネルギー先進県・福井。原子力や火力といった大規模な設備から膨大な電力が生み出され続けているこの地で、太陽光や風力など自然のエネルギーを活用する取り組みが、少しずつすそ野を広げている。県内では6月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)エネルギ
ー大臣会合が開かれる予定。福井から世界へ、エネルギー問題についてのメッセージを発信する年となる。環境問題への関心が高まりをみせる中、新たなエネルギーの導入に向けた県内各地での活動を紹介する。
トウダイグサ科の高木落葉樹「アブラギリ」。直径1センチほどの種子から採れる油は「桐油(とうゆ)」と呼ばれ、かつて県内は一大産地でもあった。生活の中から姿を消して久しいが、「昔、福井で使われていたエネルギーを復活させたい」と、美浜町内で桐油を生み出すプロジェクトが進んでいる。
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「いろいろ方法を試してはいるんだけど、なかなかうまくいかなくて」。同町新庄の豊かな緑に囲まれたログハウスで、林業の体験学習などを受け入れている「森と暮らすどんぐり倶楽部(くらぶ)」を営む松下照幸さん(61)は、そう言ってまきストーブの脇に置いて乾燥させていたアブラギリの種子を見せてくれた。
アブラギリは、中国のほか国内では県内をはじめ主に西日本に自生。葉の形が桐(きり)に似ており、実からは2、3個の種子が採れる。毒性があり食用には向かないが、桐油は灯火の燃料や、傘などのはっ水剤、塗料などに用いられた。
県内では、1653年に小浜藩主の酒井忠勝が領内で奨励したことから、盛んに栽培されるように。農家にとっては貴重な収入源となっていたといい、「図説福井県史」などによると、江戸時代から近代にかけ、越前地方や若狭地方での桐油の生産量は、全国でもトップクラスを誇っていた。しかし戦後、国内の
アブラギリ産業は衰退の道をたどることになる。石油の利用の広がりや、安価な中国産桐油の台頭……。県内では、約40年前に出荷されたのを最後に、生産は途絶えた。
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プロジェクトに参加しているのは、どんぐり倶楽部のほか、中山間地の再生に取り組む市民グループ「越前若狭安心安全倶楽部」、NPO法人「コラボNPOふくい」の3団体のメンバーら約10人。「地域が大切にしていたものを見つめ直すことは、その地域の活性化につながるはず」。コラボNPOふくい理事長の
牧野安雄さん(58)は、狙いを語る。
2009年5月、生産に携わっていたお年寄りたちから当時のことを聞き取ることから活動を開始。同年秋には、桐油の生産が盛んだった美浜町新庄地区と若狭町神子地区などで、自生しているアブラギリの実約400キロ分を拾い集めた。実から取り出した種子を約1か月間乾燥させ、11月末、搾油器を使っ
てごくわずかな量だが、油を採ることに成功した。
「コストを考えると、バイオ燃料として流通させるには難しいでしょうね」。越前若狭安心安全倶楽部の中心メンバーで福井市議の後藤勇一さん(49)は、そうみている。それでも、トウモロコシなどから作られるバイオ燃料と違い、アブラギリは食用ではないため食料価格の高騰を招かないなどのメリットがある。そ
れ以上に、後藤さんには、期待していることがある。「農業用機械を動かすための燃料に、農家が自ら作ったアブラギリの油を使うなどすれば、たとえ少量でも『エネルギーの自給自足』につながるのではないか」。だからこそ、メンバーたちは復活に情熱を燃やす。
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細かな製法を伝える資料などは残っていないため、作業はすべて手探り。実や種子の乾燥も、ストーブの近くに置いたり、天日干しにしてみたり。松下さんは、搾油器にアブラギリの種子を入れてはハンドルを回してみる。「油を天然の塗料や防腐剤として活用し、付加価値を付けていけば」。今のところ、思う
ような結果は出ていないが、期待にハンドルを回す手にも力が入る。
失われた桐油の炎は、かつての大産地・福井で再び灯(とも)るのだろうか。古くて新しい、環境に優しいエネルギーとして、復活を目指した試行錯誤が続く。
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