v10.0
- ID:
- 49083
- 年度
- 2010
- 月日:
- 1210
- 見出し:
- 18年ぶりの新人工人 全国最年少・阿保さん、父の下で修業し
- 新聞・サイト名:
- 毎日新聞
- 元URL:
- http://mainichi.jp/area/aomori/news/20101209ddlk02040223000c.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
-
黒石市の温湯(ぬるゆ)温泉などで作られる伝統の「津軽こけし」の世界に今春、18年ぶりに新人のこけし工人、阿保(あぼ)正文さん(27)がデビューし、研さんを重ねている。後継者不足の中、全国最年少のこけし工人だ。こけし作りの修業に励みながら、「魅力を広げたい」と体験学習などにも取り組んでい
る。【三股智子】
「いつかはこけし作りをやりたいと思っていた」。そう話す正文さんの父六知秀(むちひで)さん(60)も、こけし工人だ。父の下で5年間修業して今春、津軽こけし工人会(小島俊幸会長)へ入会。入会が認められると、正式に「津軽こけしの工人」を名乗ることができるという。
自宅工房には全国の愛好者が父を訪ねて来る。幼い時からもの作りや絵を描くのが好きで、父の工房が遊び場だった。愛好者らから「(こけし作りを)やるんべか」「跡取りか」などと声を掛けられても、悪い気はしなかった。
だが、こけし工人になるよう、六知秀さんが口にすることはなかった。中学卒業後すぐ師匠宅に住み込みで修業した自身の時代とは違う。「正文は自分のやりたいことをやればいい」と見守った。
別の仕事をしながらこけし工人を目指す道にもひかれた。こけしの材料でもある木や森を育てつつ利用したいと、弘前大学で林業を学び、就職活動もした。しかし、就職とこけし作りの二足のわらじは難しいと感じるようになった。
こけし工人に専念しようと決意したのは、大学4年の秋。初めて思いを打ち明けると、六知秀さんは言葉少なに受け入れてくれた。05年4月、父の下での修業が始まった。
修業は、ひたすら木材を削って直径2~3センチのコマを作ることから始まった。慣れないと回転するろくろから木材が外れて飛んでくる。「怖い」と思うこともあった。もどかしさやつらさで、逃げ出したくなる事も。支えになったのは、熱心なこけし愛好家だった。
07年春、自作のこけしが初めて売れた。「欲しい」と言ってくれたのは、大阪から度々父を訪ねて来る男性。工房に置いていた高さ9センチほどの習作で「今では見れたものじゃない作品」。でも、応援の気持ちを込めて買ってくれた。「その時のうれしい気持ちがあるから、今までやってこれた」と振り返る。
現在は数少ない若手こけし工人として、地域の体験学習などの依頼に積極的に応じている。「こけしを知らない子どもたちや、若い人たちに広めたい」との思いからだ。
10月には、みちのくこけしまつり(山形市)のコンクールで初の賞となる秋田県知事賞を受けるなど工人としての評価も高めつつある。しかし「自分のこけし作りはまだまだ」と気を引き締める。
そして、「可愛いこけしだけじゃなく、伝統の型と現代の型を融合させた個性的なこけしを作りたい」。今日も熱心にろくろを回す。
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