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- ID:
- 45935
- 年度
- 2010
- 月日:
- 0511
- 見出し:
- 大イチョウ 銅版画に雄姿
- 新聞・サイト名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000001005120005
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 鎌倉市の鶴岡八幡宮の大イチョウが倒れて以降、多くの人がかつての雄姿を絵はがきに求め、買っていった。古都のシンボルを失った喪失感は、絵はがきの作者自身にとっても一層深い。独自の写真銅版画を制作する米国人作家、ピーター・ミラーさん(64)=同市浄明寺4丁目=が20年間に手がけた
300作品のうち、大イチョウは唯一のカラー作品でもある。
(山元一郎)
ミラーさんは米国フィラデルフィア生まれ、コロンビア大卒。大イチョウとの出会いは、米国で結婚したばかりの妻裕子さん(60)と1978年正月に八幡宮を訪れた時だった。「一番目立ったのが大きなイチョウの木でした」。そのときは「ずっと鎌倉の歴史を見守ってきたのだ」と感嘆した。
ミラーさんは米国、東京で経営コンサルタントの仕事をしてきた。91年、独学した銅版画による写真作品の工房をつくり、鎌倉に移り住んだ。
黄葉した大イチョウにひかれ、初のカラー制作に挑んだのが95年の晩秋。大判カメラをバックパックに入れ、自転車で出かけた。一番いい色に撮るために10回は通った。
さらに工房での作業へ。色分解、化学反応処理などを経て三つの銅版を作る。銅版にインクをのせ、1枚ずつ同じ位置に0・1ミリの誤差もなく置き、紙に重ね刷りをする。
大イチョウの色は「ゴールデン」とミラーさんが表現するような奥深い色合いになるよう何度も試み、満足できる刷り上がりまでに1年以上もかかった。作品は縦26センチ、横21センチ。この作品を写真に撮って作った絵はがきは、市内の書店で売られ、倒壊後は飛ぶように売れたという。
この20年で、鎌倉大仏をはじめ社寺や自然を中心にした作品約300点を制作してきた。「見る人の想像力のスペースを広げるため」にモノクロームにこだわってきた。色分解したカラー作品は今も大イチョウだけだ。
大イチョウが倒れたのが3月10日。ミラーさんは旅行中で、市内の自宅に戻って同13日に倒壊を知った。驚きとともに「信じたくない」という気持ちが駆けめぐった。ようやく翌14日になって、自宅から約2キロ離れた八幡宮へ。「目の前で本当に倒れていて、寂しさを感じました」
今も頭から大イチョウのことが離れない。「人間は失ってから分かるんですね。倒れて多くの人が訪れているのも、大イチョウに重ねて自分の人生や家族のこと、友人のこと、仕事でのつながりに思い至るから」と話す。
ミラーさんの工房は「鎌倉プリント・コレクション」(http://kamprint.com/xpress/)。
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