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現代において住まいの品格とか家の価値や重みとは一体なんなのでしょう。果たして床の間や仏壇などが祀(まつ)られて形式張ればできるものなのでしょうか
Sさん宅の完成間際の外観、玄関脇の2本の杉の丸柱が特徴
Sさん宅玄関ひさしの軒裏の木組み
拙著「建築家が考える『良い家相』の住まい」(講談社)
前回「“家”とは“お家の一大事”の家であり、“ファミリー”の一家とも言える……」、また「子どもに家の中で、そう(格式やマナーを)教育することが親の務めであり、覚悟だった」かのようなお話をいたしました。
案の定、国内外から多くのご意見を頂きました。そんな中、海外で暮らしておられる方からは私の考えに賛同される方が多く、反対に、多分年代的にご高齢(失礼)の方からのご意見は「なにを今頃封建的なことを言って
いる」「ナンセンスだ」などとご批判を頂きました。中でも興味深いのは、これから家を建てたい、あるいはマンションを買い求めたいという若い方々からは「まことにその通り、高層や小さな家にもそんな格式を持ちたい
!」という意見もありました。
確かにわが国の家には古来、独特な伝統や形式がありました。それがまた文化でもあったのですが、明治から大正にかけて異文化が入り、英欧化され、そして戦後は突如として教育や暮らしまでも米国からの影響を大
きく受け、ついには高度成長期に住宅ブームが起こり、急激に現代の家の形となったのです。それは元来の家の伝統や形式がモダンになったというものではなく、むしろそれらをあえて捨てることから生まれる家の形のよ
うでもありました。
特に量産化される家は自動車のような商品となり、規格化され、その部品も工法もすべて工場管理のしやすいものへと変化していきました。あわせて高額商品でもある家の材料は貿易黒字減らしのための輸入材が推奨
され、ほとんどが外国材や集成材となったのです。結果、家の形は箱型の壁の家となり、おかげで慣れない個室化が進み、シックハウスが問題となったのです。
そして今、手づくりの家は特殊なものとなり、大工左官などの職人は急激に少なくなり、切り出し効率の悪い日本の林業は衰退し、森や山は間伐や下刈りがされることなく放置され荒れ果て、そのため杉花粉症などを引き
起こし、ひいては二酸化炭素の森林吸収源対策(京都議定書の温室効果ガス削減のCO2森林吸収の予定値)も大幅に危ぶまれている(林野庁調査)と言われているのです。
またまたご意見を頂きそうなのですが、この現象は単に床の間がなくなった家という形式的なことではなく、また風通しの悪いベニヤ板の壁の家のことでもなく、“家”を持つ人の意識、その伝承のなさが問題なのです
すでに家でもなく、住まいでもなく、住むための箱か、走る自動車のようでもあり、テーマは低燃費?ローコスト?となっているかのようです。
ちょっとここらで足を止めて思い出してみませんか?古めかしい家で、臭い汲み取りの便所、サッシも断熱材もなく、隙間だらけの寒く不便な自分たちが育った家を、そしてその家で親たちがなにを大切にし、なにに気
を付けて暮らしていたかを……。
子ども部屋はありましたか?冷暖房も床暖房もありましたか?対面式のシステムキッチンや、洗浄器付の水洗トイレ、ひねるとお湯が噴き出すユニットバスがありましたか? なにも懐古趣味で言っているのではありませ
ん。ほんの昨日のことです。私はこうして考えることによって、今“失われた大切なもの”を考えるのです。
小さくてもいい、高層住宅でもいい。親たちが、そのまた親たちが大切にしてきた家の風格と品格と重厚な暮らしを取り戻したいのです。特にわき目も振らず高度成長期を走り抜いてきた私たちこそ、今足を止めて、か
つて家族や自分にしてやれなかったことを、もう一度やり直してみたいと思うのです。それも、老いて知らないところへ行ってしまうのではなく、今のところでリフォームでも建て替えでもいい、レトロ趣味ではない本来の“
家”を取り戻すのです。それを人生最後の仕事とし、暮らして、後世(子どもたちではありません)に残せる家にしたいものです。
次回は梅雨の季節です。湿気対策「メンテナンスのメは目」?をお話しします。
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