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木造建築のネツト記事
ID :  14485
公開日 :  2009年 12月18日
タイトル
[徒弟制度に代わり、大学が「職人」養成
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/life/edu/news/20091219ddm090100128000c.html
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元urltop:
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写真:
 
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製造業界に危機感…ものづくり技術を伝授  「第2の就職氷河期」と呼ばれ、大学生の就職活動の厳しさも増す中、「職人養成」大学が注目を集めている。かつて職人をまとめていた棟梁格の大工が減少し、大卒社員を大工に養成する建設会社も出てきた。職人を 目指す大学の現場から報告する。【井崎憲】  ◆実習で寺院を再建  埼玉県行田市郊外にあるものつくり大学キャンパス。敷地内には建築中と見間違うような日本家屋や茶室が数棟あり、建設技能工芸学科木造建築コースの学生が年間を通じて屋外実習している。
 12月1日、行田市内にあった江戸時代後期の寺院本堂から移築された木材を使い、寺社を再建する実習が行われていた。ヘルメットをかぶった同コース3年の学生が鉄骨の足場を組み、高さ10メートル近くあった元の 本堂を再現しようと木材の組み上げ作業が続く。大型クレーンも使った本格的な「建設作業現場」だ。
 「普通の大工より高度な技術が要求される宮大工に必須の技術をマスターします。かつて親方が弟子に技術を伝えていた徒弟制度がなくなり、大学でやるしかない」  学科長の白井裕泰教授(建築史)が実習中の学生に指示を出しながら説明してくれた。最近の住宅建築の木材はプレカットが進んでいる。木材の多くが工場で加工され、現場では簡単な組み立て作業で済む場合が多い 。屋根部分に反りのある寺院建築のように高度な組み合わせ技術が求められる場合、普通の大工では対応できないという。
 技術の習得には、過去の設計図を読み取って、縮小サイズの柱や梁(はり)を再現する「軸組み模型」製作などを経て、講義も交えながら、建築技術を学ぶ必要がある。
 ◆実務徹底で就職直結  01年に開学したものつくり大は、製造業現場の技術伝承が薄れていることに危機感を抱いた産業界の支援を受けて設立された。以前からあった工学部の建築学科などと一線を画し、実技・実務教育重視の授業を徹底 している。
 木造建築コースの場合、教室の座学は35%で残りは実習となっている。2年、4年時に工務店などへのインターンシップを盛り込み、卒業生の多くが木造専門の工務店やハウスメーカーに就職する。ものつくり大の場合 、製造技能工芸学科も含めた全2学科のこれまでの就職率は、1期生が卒業した05年から今春まで93~98%と堅調だ。
 ◇大工やりたい大卒者採用、現場まとめるリーダーに 真剣な志望者、全国から--静岡の建設会社  00年代に、全国の大学では「理系離れ」が進み、工学部系の人気は低迷していた。医療系などの学部と比べて「就職に直結する資格が取れない」などの不安が背景にあった。就職後、文系学部出身の社員と比べ、昇進 や給与面で必ずしも厚遇されないことも不人気の要因だった。しかしリーマン・ショックに伴う昨年秋からの景気悪化や日本人の相次ぐノーベル賞受賞が話題になったこともあり、現在は低迷に歯止めがかかった。
 そんな、理工系の大卒生を正社員に採用し、大工として育成する業界ではめずらしい建設会社がある。静岡県沼津市にある「平成建設」で、「高学歴大工集団」として高品質を目指し、安値受注はしない方針で業績拡 大を続けている。秋元久雄社長は「優秀な大卒社員こそ現場をまとめ上げる大工になるべきだ」と話す。
 祖父、父ともに大工の棟梁だったという秋元社長は、ゼネコン営業マンなどを経て、89年に平成建設を設立。「このままでは日本から大工がいなくなってしまう」という危機感があった。
 国勢調査によると、85年に約80万人いた大工は05年には約53万人に減少した。平均年齢は48・7歳で、年代層で見ると、50歳以上に大幅に偏っている。
 ◆施工品質にも反映  建設業界では、人件費のかさむ現場作業は外注する傾向にあり、大工を社員として抱える習慣がなかった。その結果、元請けから発注を受けているだけの現場作業員は施主の顔も知らず、与えられた作業を与えられ た賃金内でしかやろうとしなくなっているのではないか。長年、建設業界を見てきた秋元社長の目にはそう映った。
 工事責任を明確にし、施工品質を保つには、リーダー格の大工を育てる必要があるとして、創業翌年の90年から大卒社員を地元で募集した。
 県内の優秀な学生が集まるようになり、00年から「広く募集すればもっと応募がある」と全国募集を始めた。東京大や京都大からの応募もあり、今では国立大や有名私立大の卒業生を毎年50人ほど定期的に採用。院卒 生は2割を占める。現場を経験することで知識を体得し、ベテランになれば高度な日本家屋をチームで建築していく仕事が学生たちには新鮮に映る。同社によると、就職活動でセミナーに来る学生は、他の大手ゼネコ ンなどとの掛け持ちではなく、平成建設だけを志望するケースが多くを占めるという。
 住宅関連の団体や住宅メーカーが高卒者を大工として養成している例はあるが、大卒者を本格的に養成している例はほとんどない。平成建設の場合、約400人の社員のうち約170人が大工や職人だ。
 営業やデザインなど直接、建設にはかかわらない部署に配属される社員も、入社後半年以上は建設現場の作業研修が必須となっている。
 ◆受け皿なかっただけ  11月下旬、本社の近くにある賃貸マンション建設現場で、4月に入社した社員が研修として建設作業に従事していた。コンクリート型枠の取り外しなどを黙々とこなす。
 将来はデザイン部に配属される田中聡志さん(23)は中央大学土木工学科出身。「大きな建設会社に入った大学の友人もいるが、会社の一部分になるより、ここで幅広い技術を身に着けたかった。将来はデザインの仕 事に回るが、どうやったら精度のいいものができるか体感できました」  芝浦工業大建築工学科を卒業した三浦拓さん(23)は大工志望。4月からの研修で夏場を乗り切るのは大変だったという。「建設現場を見学したことはあったが、危険な場所での作業は初めて。どうしたら作業チームを まとめていけるか学べたのが大きい」と振り返った。
 創業して間もないころ、東大生、京大生が応募してきた。秋元社長は「世の中には変わり者がいるな」と思うだけだった。だが今は違う。「面接してみると一人一人が『大工をやりたい』と真剣なことが分かった。それまで 受け皿がなかっただけなんです。職業に対する価値観が変わったのでしょう」  ◇技能継承、不安抱える企業 新指導要領、職業教育盛る  ものづくり技術の継承について企業側の不安は強い。厚生労働省「能力開発基本調査」(09年)によると、製造業の46%の社が「技能継承に問題がある」と感じている。
 従業員がもともと少ない中小企業では、ベテラン従業員の退職等に伴って技能が失われることに危機感が強く、「影響がある」(24.7%)「当面影響は小さいがいずれ問題となる」(35%)と、6割の社が問題視している (中小企業金融公庫総合研究所の08年のまとめ)。
 このため、学校教育については、06年成立の改正教育基本法に「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う」と規定された。さらに昨年3月公示の新学習指導要領では、中学校で職場体験活動を盛り 込むなど、ものづくりを重視している。