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木造建築のネツト記事
ID :  12414
公開日 :  2009年 7月 7日
タイトル
[「日本建築は特異なのか」展:中韓と比較して 神社建築の独自性で新説も--歴博
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/enta/art/news/20090706dde018040040000c.html
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元urltop:
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写真:
 
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中国、韓国との比較で日本の建築の特徴を探る企画展示「日本建築は特異なのか--東アジアの宮殿・寺院・住宅」が、千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館で始まった。神社建築をめぐるスリリングな仮説が 飛び出すなど、刺激に富んでいる。古建築入門としても面白い。【伊藤和史】  ◇自然と折り合う韓国 奥行き最重視の中国  模型、写真、図面などによる展示や、開催に先立って開かれたシンポジウムから中・韓・日の特徴が浮かんでくる。
 まず、中国について田中淡(たん)・京大教授は「立派な建物とは奥行きが深い建築のこと。これは4000年変わらない原理原則で、韓・日と比べても相当はっきりした特徴」と説明する。高さ(天)や左右対称への志向も 大きな特徴のようだ。
 その代表が北京の紫禁城(故宮博物院)。幾重とも知れずに連なる建物列が来場者を圧倒する。現・紫禁城は明代の建築だが、「礼制の理想を重視した復古的建築」(田中教授)で、伝統の根強さを示している。
 中国では宮殿が建築の頂点に立ち、仏寺、道観(どうかん)(道教の寺院)、孔子廟(びょう)、住宅などはすべて「宮殿の小さい版」として説明がつくそうだ。
 「自然・社会条件による土着性と中国の影響」(金東旭・京畿大教授)が韓国の特徴。朝鮮半島は冬は厳寒、夏は猛暑、雨は6、7月に集中する。このため、独特の暖房装置オンドルや開放的な板敷きの両方を備え持つ建 築を生んだ。また、行事は天気の良い季節に屋外で行うことが多く、マダン(庭)を重視した建築となっている。
 宮殿をみると、ソウルの景福宮(朝鮮王朝の宮殿)は、「前朝後寝」(中軸線上、朝廷を前に寝宮を後ろに配す)と中国の礼制に従いながら、左右対称は避け個性を発揮している。
 さて、日本はどうか。
 藤井恵介・東大准教授は「建築のデザインは構造(建てるのに必要な形)だけでは決まらない。デザインには意図がある」と強調する。その目で見ると、最も日本的な建築は神社だ。
 神社建築の発生には諸説あるが、6世紀に入ってきた仏教が神道の形成を促し、寺院建築に刺激されて神社建築も生まれたと考えられている。
 ところが、神社は寺院とは相当に違い、宮殿のミニチュア化・簡素化で考える中国風の説明がまったく通用しない。こういう建築は中・韓にはない。
 神社の特異性を藤井さんは神像の未発達と関連づけて新説を展開する。神社の本殿は扉を閉ざし、原則として内部での儀礼はない。そもそも、本殿に神像を置くことすらまれだ。
 「仏像では図像が発達し、少しずつの違いで仏の種類がわかる。しかし、神像にはそうした表現がなく、建築の外観しか区別の機能を持ちません」。神明造り、大社造り、住吉造り、春日造り、権現(ごんげん)造りなど、外 観の区別が多彩なのは、仏像の種類が生む機能を社殿の外観が果たしているからだとみる。
 神社が何度も建て替えられながら、形を維持する特異性も同じ原理で説明される。
 「仏像の形を変えれば意味が変わるように、神社の外観を変えるわけにはいかない。神社の本殿では基本的に何もしません。機能がないから使い勝手の問題も起こらない。寺院などとは違う種類の建築なのです」  このように神社建築が中国化せず、日本の中で互いの個性を表現してきたのが、この場合の「建築意図」というわけだ。
 こうした意図は住宅にも表れている。日本の住宅は組物(軒を支える構造)をもたない点で、中・韓と好対照。「寺院などの新しい文化が入ってきても、慣れ親しんだ住宅を変えたりはしない。近代でも公共建築から欧米 化が進み、住宅は後。神社(への信仰)も仏教より先に成立しており、寺院とは別個のものとして存在したのでしょう」と藤井さんは推測する。
 「特異なのか?」という問いかけに対し、全体に「特異である」との印象が強い展示だが、企画代表者の玉井哲雄・歴博教授は「日・韓とも独自のものを追求しつつも、東アジア共通の原則は踏み外しはしなかった」とまと めている。
 同展は8月30日まで。