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ID :  5895
公開日 :  2007年 12月28日
タイトル
[「木」のぬくもり……SI住宅の可能性
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新聞名
朝日新聞
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元URL.
http://www.asahi.com/housing/column/TKY200712280224.html
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元urltop:
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写真:
 
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建築をスケルトン(躯体)とインフィル(内装・設備)に分けて、スケルトンの耐用年数を百年単位に引き上げ、インフィルを簡単に交換、再生できるようにした家を「SI(スケルトン&インフィル)住宅」と呼ん でいる。
古民家をリノベーションしたホテル・イギリス 木造大断面工法の柱と梁 コミュニティハウスの模型  このSI住宅をこれからの日本の住まいづくりの根幹に据え推進していこうと、自民党の住宅土地調査会(福田康夫会長)が今年5月に発表したのが「200年住宅ビジョン」である。それは、これまでのスクラップ&ビルド の「消費型社会」から、住宅が社会資産となるような「ストック型社会」へと大きく方向変換しようという政策提案といっていい。いま、待ったなしの地球環境を考えれば、それはとても意義あることだと思う。  でも、その「200年住宅ビジョン」には、具体的な建築デザインが、住まいとしての生活シーンが少しも見えてこない。そこに、建築への、住まいへの美意識が欠けているように思えてならない。建築が堅牢であること は、必要条件であって十分条件ではないだろう。美しい住まいだからこそ、何世代にも渡って住み続けることができる。そのことを、世界中の古都や古民家は証明してくれている。そう前回のコラムに書いたが、このこと は何度でも強調しておきたい。そして、引き続きSI住宅の可能性について考えてみようと思う  最近、リフォーム、リニューアル、リノベーションという言葉を耳にする機会が多くなった。それら用語は、老朽化した建築の修復、改修という意味で使われているが、微妙にニュアンスは異なるようだ。  「家をリフォームする」というような単なる改装はリフォーム、リニューアルは店舗などの刷新、再生を強調するときに「リニューアルオープン」などと用いられる場合が多い。リノベーションは、老朽化した建築を現代社 会のニーズにあわせて最先端デザインでリニューアルし、建築的付加価値を新築以上に高めることをめざしながら、効率よい事業展開を実現しようとする場合によく使われている。  コンバージョンという用語もある。たとえば、オフィスビルを集合住宅へ、倉庫をギャラリーや店舗へと、建築の用途転換を伴うリノベーションを、そう呼び慣わしている。リフォーム、リニューアル、リノベーション、コン バージョンしやすい建築に最初からしておこう、そして建築の耐用年数を百年単位に延ばそう、それがSIの思想であり、SI住宅構想なのである。  でも、西欧の諸都市を旅していると、数百年前の建築が今も現役で立派に活躍している姿によく出会う。たとえば、修道院や刑務所がお洒落なホテルに、また大きな教会がまるごと現代美術のギャラリーにコンバージョ ンされていて、建築がいきいきとしている。そうした建築をまのあたりに体験すると、西欧建築文化には最初からSIの思想あり、むしろそこに西欧建築のアイデンティティーがあるように思えてくる。  それは、西欧建築が、石をスケルトンにした「石造」を基底にした文化だからだろう。そして、そこに、建築も家具も何世代にも渡って使い続けようという西欧人の強い意思を感じる。もちろん今も昔も西欧には豊かな森 はたくさんある。でも、西欧人のその強い意思こそが、堅牢で美しい「石造」建築文化形成へと向かわせたに違いない。  それに対して、日本の建築文化は、木をスケルトンにした「木造」を基底にしている。20年ごとに本殿を全く同じ姿に建て替える伊勢神宮の式年遷宮は、日本の建築文化をよく象徴していよう。それは、木造文化ならで はのまさにスクラップ&ビルドの思想といっていい。  式年遷宮という日本古来の伝統儀式には、いくつもの理由、由来があろう。でも、その根底にあるのは、清々しい白木に美を感じる日本人特有の美意識ではないだろうか。真新しい白木の木肌の美しさ、その香り、その ぬくもりに、日本人は最高の価値を見出してきた。  その一方で、木肌は、陽に焼かれ、人の手に磨かれ、時の流れと共にその質感や色を変え、さらにいずれは朽ちていくだろうその過程の姿に、「わび」や「さび」を感じる美意識を日本人はあわせ持ってきた。そうした日 本人固有の美意識は、いまも変わらなくあると思う。  でも、いまの私たちの住まいから、「木」はいつの間にか消えてしまった。住まいを見渡せば、金属とガラスと新建材ばかりだ。それは、特に戦後日本の住まいづくりで、堅牢さと防火性能ばかりが、また質より量という経 済性ばかりが優先された結果だろう。そのこと自体は、決して否定されるべきことではない。しかし、結局のところ、そこに日本人固有の美意識が全く反映されてこなかった。  だから、美意識が欠如した味も素っ気もないスクラップ&ビルドを前提にした住宅ばかりが、日本の都市を覆いつくすことになったといっていい。そして、建築に不動産価値を見出さない土地神話が生まれ、日本の建築 文化は停滞してしまった。そう思えてならない。開国間もない明治時代の頃、日本に訪れた外国人は、日本の街並みの美しさに目を奪われたという。私たち日本人は、その歴史的事実を思い起こすべきだろう。  21世紀初頭にあるいま、私たち日本人の住まいづくりは、大きく方向転換しようというとしている。都市部では、スケルトンがRC、SRC造の堅牢で巨大な集合住宅が数多く建ち始め、それが住まいの主流になりつつある 。その一方で住まいのリノベーションへの関心が高まっている。その象徴が、SI住宅だろう。  僕は、いま、住まいに「木」のぬくもりを復活させたいと考えている。それが、現代日本の住まいに美意識を再生させる有効なひとつの方途だと思うからだ。具体的には、木の積層材による大断面工法を採用した小さなコ ミュニティーハウスを設計していて、それが木造SI住宅のプロトタイプ、モデルになることを目指してしている。それは、堅牢で美しい木のフレームがふんだんにちりばめられた居住空間になるだろう、そして時と共に味 わい深い住まいとなって住まい継がれていくだろう、そうなることを期待している。