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ID :  5489
公開日 :  2007年 11月26日
タイトル
[木の家の良さは住んで初めて分かる?!
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新聞名
朝日新聞
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元URL.
http://www.asahi.com/housing/amano/TKY200711250075.html
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元urltop:
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写真:
 
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 「木の住まいはなぜいいんですか?」 「夫・婦」寝室。夫の座敷、妻のベルサイユ わが家棟上げの感動のNさん 完成間近の外観、野田のしょうゆ屋さんをイメージ 同、木をふんだんに使った内部空間  講演や設計の打ち合わせの際によく出る質問です。私も一瞬「???」ですが、  「たぶん、それは……“木の匂い”でしょう!」  と、答えることにしています。あの木の香りには森に帰るというか、人の原点に戻る、そんな香りがすると思うからです。とくに昔からなじんできたヒノキや杉の匂い、さらにケヤキや竹の甘い匂い、香ばしい畳の匂いな ど、人の心の奥深くにしみ渡る望郷のような、そんな何かがあると思います。  「でも、ツーバイフォーも木質系プレハブも同じ木ではないですか?」、「コンクリートの建物でも内装にそんな木をふんだんに使えば同じじゃないですか?」などと切り返されるのですが、ベニヤ板の独特の匂いとの違 い、さらに全部無垢の「木」でできた空間との違いをうまく説明できず、「ま、とにかく日本人は木とのなじみがいいんですよ」などと曖昧な答えになってしまいます。  家づくりの現場では、これほど多くの工法や構造がありながら、依然として木の住まいの願望が強いのは一体なぜでしょう。木造イコール「和」志向の家とは一概には言えないまでも、家を持つときの心の回帰として日本 人の奥底にあるのかもしれません。  このことはなぜか、寝室の設計のときに如実に“表面化”されることが多くあります。ほとんどの建て主の夫は理想の寝室として畳の部屋をイメージするのです。自身の生まれ育った環境か、あるいは格式のある料亭で の会食や、出張の際に泊まった旅館などで味わった和の部屋のたたずまいや、昔懐かしい畳や障子や土壁の匂いにあこがれるのかもしれません。  一方、奥さん方はこと寝室に限っては洋室のベッドが当たり前のようで、そんな畳の匂いも、たたずまいもなんのその、まずはふとんの上げ下ろしで猛反対、どうも家事の途中でちょっとゴロンとなれるベッドが一番のよ うです。夫の和室、座敷寝室の願望は夢と消えます。奥さんの心の奥深くには、ベルサイユ宮殿のマリー・アントワネットの豪華な天蓋のあるベッドのイメージがあるのかも知れないとあきらめるべきです。そこで毎度おな じみ、あの「夫・婦」寝室(イラスト)です。夫は床の間つきの和室、ふすまを挟んでベルサイユのベッドルームです。  しかし、ホンネはご夫婦とも家全体に、ほのかな木造の願望はあるようで、実際に家を建てるにあたって、いよいよ骨組みが上がる際にはっきりします。いわゆる上棟(じょうとう=棟上げ)のときです。まだ骨だけの木 造の軸組みを見て、多くの建て主が本当に涙するほど感動されます。まさしく“建築”のだいご味と、わが家を支える柱や太い梁を現実に目の当たりするからです。そんなご主人を横目で見て、奥さんもまためったに見せ ない夫の感動する姿に大いに感激されます。  おそらく、柱と梁の複雑で精巧な伝統的な仕口のワザと、それらががっしり逞しく組まれて行く木組みに目を見張り、多くの匠の衆が一日がかりで寄って集ってわが家を組み上げる雰囲気も感動的です。このときこそ建て 主として、オーナーとしての実感を噛み締めることが出来るのかも知れません。  こうして建てられた、この世に一つしかない手づくりのわが家はご夫妻に大切にされ、手入れをされて末永く長持ちします。結局のところ、木造は自分の手によるなじみ深いものだから愛着があるのかも知れません。  そして、そんな気持ちで住んで見ると、フッと香るヒノキの匂い、しっとりとした空気、時々パキッ、ピシッと、まるで家が生きているような音もします。夫婦が、家族がなんとなく優しくしっとりとするのも不思議です。一度 、本格的な木造の家や宿に住んでみてはいかがでしょう。室内の空気がまるで違うことが分かります。  今日もまたその棟上げの感動が覚めない、楽しみのわが家の完成を迎えられる建て主がいらっしゃいます。完成まで設備機器や仕上げ材、さらにはカーテンや照明器具など、忙しい合間に悩み、選び、ようやく今、竣工 を迎え、いよいよそこに住もうというときになりました。このときこそ建築家冥利につき、本当に心よりおめでとうと申し上げたい瞬間です。