ID :
4476
公開日 :
2007年 8月19日
タイトル
[米住宅着工、10年ぶり低水準=サブプライム不安と信用収縮不安で
.
新聞名
Klugクルーク
.
元URL.
http://www.gci-klug.jp/masutani/07/08/17/10_2.php
.
.
写真:
.
前日、米商務省が発表した7月の米住宅着工件数は、前月比6.1%減の年率換算138万1000戸となり、前月の同2.1%増の147万戸(改定前は146万7000戸)から急落し、市場予想のコンセンサスである140万5
000戸も下回った。過去のデータとの比較でも、1997年1月の135万5000戸以来、10年ぶりの低水準で、前年比でも、前年同月比20.9%減と悪化が続いている。これは、最近のサブプライム不安やクレジット市場で起きて
いるクレジットクランチ(金融システムが麻痺して極端な金融逼迫が起こること)の影響で、住宅ローン会社は、融資に必要な資金調達ができなくなる一方、消費者は住宅ローン会社の融資基準の厳格化や住宅ローン金
利の上昇で、ローンを組むのが困難になっていることを反映しているのだ。
13日にFRBが発表した金融機関の融資状況調査によると、住宅ローンのサブプライム融資(信用度の低い顧客への融資)を手がけている16金融機関の56%は、住宅ローンの融資基準を厳格化していると答えており
、住宅ローン以外のあらゆるタイプの消費者ローンに対する需要も、この3カ月で目立って低下しているという。信用収縮が、末端の消費者レベルにも及んできていることが分かる。
米住宅ローン大手カントリーワイド・ファイナンシャルは16日、短期資本市場からの資金調達が困難なため、事業継続のために必要な資金の手当てとして、115億ドルの融資枠全額を取り崩すと発表したが、米住宅ロ
ーン16位のファースト・マグナス・ファイナンシャルも16日、モーゲージ証券の流通市場の崩壊を理由に、新規の住宅ローンの取り扱いを停止したと発表し、また、ナショナル・シティ銀行も先週、同社の住宅ローン部門
の業務を停止し、今後は、モーゲージ部門と合併させ、市場環境が回復するまで住宅ローン業務を見合わせると発表している。
また、同時に発表された住宅着工を建築許可ベースで見た7月の建設許可件数も前月比2.8%減の年率換算137万3000戸と住宅着工件数を下回り、住宅建築は依然、低調であることを示した。このため、市場では、今
後数四半期は、住宅セクターのソフトランディング(緩やかな調整)が長引き、住宅市場の低迷が経済の伸びを抑制するという見方を変えていない。また、FRBのセントルイス地区連銀のウィリアム・プール総裁も15日の
経済通信社ブルームバーグとのインタビューの中で、最近のクレジット市場の混乱が、住宅市場の在庫調整を長引かせる可能性があるとの認識を示している。
NY株式市場、FRBへの年内利下げに対する強い期待で急反発=一時344ドル安から
元はといえば、クレジットクランチ懸念は、住宅ローン会社が、信用度の低い消費者にサブプライムと呼ばれる高金利の住宅ローンを貸し付けたことに始まり、それが、最近の金利上昇や住宅市場の低迷で住宅価格が
急落し、その結果、ローン返済の焦げ付きが急増、フォークロージャー(住宅不動産の差し押さえ=競売)手続きも急増し、それが、サブプライム住宅ローン債権を担保にしたモーゲージ証券の運用損失拡大につながっ
ているのだ。
米MBA(抵当銀行協会)が6月14日に発表した第1四半期(1-
3月)の住宅ローン利用者の債務状況に関する調査結果によると、ローン返済が3カ月(90日)以上、滞納したケースを債務不履行と定義しているが、債務不履行によるフォークロージャー手続きに入った件数は、全体
のローン利用者の0.58%と過去最高を記録し、昨年第4四半期の0.54%、さらに、1年前の昨年第1四半期の0.41%に比べて、急増している。同協会では、こうしたフォークロージャー手続きは、まだ、ピークに達していな
いとし、今後、数四半期は、増加すると見ている。また、住宅ローンのサブプライム融資(信用度の低い顧客への融資)のうち、第1四半期にフォークロージャー手続きに入ったのは、全体の3.23%で、昨年第4四半期の2.
7%から急増している。
こうしたクレジットクランチ懸念に対し、この1週間、FRB(米連邦準備制度理事会)を始め、ECB(欧州中央銀行)や日銀、ニュージーランド中銀、そして、15日にはロシアと豪州の中銀も金融市場に巨額の資金供給して
いる。FRBも16日に2週間物レポで50億ドル(約5600億円)と翌日物レポで120億ドル(約1兆3500億円)を供給し、16日までの過去6営業日で、合計880億ドル(約9兆9000億円)も供給している。米国では16日から2週間の
支払い準備金の積立期間に入ったが、FRBに代わって金融調節を任されているニューヨーク連銀はこの期間中、ほとんどの日にレポ取引(売り戻し条件付)で、金融市場向けに資金を供給するほか、必要があれば米国の
銀行間で取引される無担保コール翌日物金利に相当するFF(フェデラル・ファンド)レートを誘導目標5.25%に近づけるよう、追加の資金供給を行う態勢にあると声明を出している。
しかし、それでも米国のコマーシャルペーパー(CP)市場では、発行残高は急減しており、市場では8月中の利下げを期待する声が日増しに強くなってきている。FRBの調査によると、15日で終わった週のCP発行残高
は、前週比900億ドル(約10兆1000億円)減の2兆1320億ドル(約240兆円)となった。CP発行者が市場から退出を余儀なくされ、他のところで資金調達しているのだ。16日のNY株式市場はクレジット市場不安で、一時、ダ
ウ平均株価指数が前日比で344ドルも急落したが、引けにかけて急激に持ち直し、結局、15.69ドル高の1万2845.78ドルに反発して引けたのも、FRBへの年内の利下げに対する強い期待の表れだった。
FF金利先物市場、12月FOMCで4.25%への利下げ確率100%織り込む
16日のCBT(シカゴ商品取引所)で、FF(フェデラル・ファンド)金利の11月物は、FRBが、政策金利を現行の5.25%から4.75%に引き下げる確率を前日の86%から100%織り込んだほか、4.5%までの大幅な利下げの確
率を前日の0%から26%織り込んだ。また、12月物は12月11日のFOMCで4.5%に利下げする確率を100%織り込み、さらに4.25%に利下げする確率を前日の26%から100%織り込んだ。
また、16日の米CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)でも、ユーロドル金利先物は、今年第4四半期(10-12月)に、FOMCが年内に現行の政策金利5.25%から4.75%に、また、来年第1四半期(1-
3月)に4.5%まで利下げする確率を100%織り込み、同四半期にさらに4.25%にまで利下げする確率を56%織り込んだ。
利下げよりもモーゲージ証券市場への資金供給か
しかし、市場の一部の見方として、FRBは、クレジット市場の混乱を引き起こした投資家のリスク資産への過剰投資に対し、罰を与えるべきという考えがあり、すぐには利下げに応じないという見方もある。
エコノミストの中には、各国の中央銀行は、利下げではなく、市場に信頼感を取り戻すような良い情報を伝えるべきだとし、中央銀行は長めの流動性を市場に供給し、市場の安定を期すべきだという。また、米証券5位の
ベア・スターンズも、経済は依然堅調で、企業利益の減少や在庫急増など景気の後退が差し迫っている状況ではないので、たとえ、8月のクレジット不安の問題が起きていても、FRBは8月中の緊急利下げはせず、モーゲ
ージ市場に潤沢な資金供給を続ける可能性があるとしている。また、今は利下げ期待が強いが、7月のコアCPI(消費者物価指数)が3カ月連続で前年比+2.2%となり、なかなかコアインフレ率が低下していかない状況を
考えると、クレジット不安が解消すれば、今度は、利上げが幅を利かすことになる。
FRBのプール総裁も、「金融市場に甚大な被害が起きない限り、FRBは定例会合前に(利下げを)決定することはない」と述べ、9月18日のFOMC前に緊急利下げする可能性はないとし、9月のFOMCについても、「経済
データを分析、評価して、市場の言うように米国の景気が後退しているという認識を共有できるかどうかを判断する」と早期利下げには否定的な見方を示している。