ID　14327

登録日　 　2009年 12月　9日

タイトル

住友林業、鎌倉・安国論寺の名木・貴重木増殖プロジェクトで樹齢３５０年の山茶花の増殖に成功

新聞名

日本経済新聞

元URL.

http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID　=238570&lindID　=5

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写真:

　

鎌倉・安国論寺における名木・貴重木の増殖プロジェクトについて －　樹齢３５０年の山茶花の増殖に成功　－ 　安国論寺（住職：玉川　覺■　神奈川県鎌倉市大町４丁目４番１８号）は、７５０年前に日蓮聖人が前執権の北条時頼に上奏した『立正安国論』をこの地の草庵で著したとされ、寺号はこれに由来しています。四季を通じて 花が多いことでも知られ、なかでも日蓮聖人の桜の杖が根付いたといわれる妙法桜（みょうほうざくら）、鎌倉三大海棠（かいどう）の一つに数えられる本堂前の海棠、樹齢３５０年といわれる山茶花（さざんか）が鎌倉市の 天然記念物に指定されています。
　※■印の文字の正式表記は添付の関連資料を参照 　安国論寺では、これらの貴重な樹木を子々孫々まで受け継ぐため、近年樹木医による養生を行なっていましたが、どの樹木も非常に樹齢が高く、将来樹勢の衰えにより枯死することも危惧しておりました。本年は日蓮 聖人が鎌倉幕府に『立正安国論』を建白して丁度７５０年となることから、安国論寺ではその記念事業として、上記３樹木の後継稚樹を増殖することを決定しました。住友林業株式会社（本社：東京都千代田区　以下、住友 林業）は安国論寺より増殖の依頼を受け、平成２０年に今回の増殖プロジェクトに着手、挿し木技術に関しては株式会社資生堂（本社：東京都中央区　以下、資生堂）との共同研究により見出した発根促進成分“ＫＯＤＡ”※ １を活用し、この度安国論寺の貴重な山茶花の後継稚樹増殖に成功しましたので、お知らせ致します。
※１：ＫＯＤＡ（Ｋｅｔｏｌ　ＯｃｔａＤｅｃａｄｉｅｎｏｉｃ　Ａｃｉｄ）：天然植物脂肪酸 　資生堂が花芽形成促進成分として見出した物質で、住友林業と共同研究中の天然植物脂肪酸。発根促進作用、花芽形成促進作用のほか、休眠の抑制など、植物の成長促進作用があるとされています。
１．樹木の育苗の経緯と方法 　樹齢３５０年の山茶花をはじめ、妙法桜、海棠の樹勢が衰え始め、これらの貴重な樹木が絶えてしまうことを憂慮した住職から住友林業が依頼を受け、今回のプロジェクトに着手しました。また、平成２１年は日蓮聖人が 『立正安国論』を北条時頼に上奏してから７５０年の節目であることから、本年中の成功を目指して研究を進めて参りました。３５０年生のサザンカから採取した枝を材料に、湿度、温度、及び光量を制御できる人工気象室 にて挿し木を行い、その直後に“ＫＯＤＡ”を施用しました。その結果、山茶花については顕著な発根が認められ、この度増殖に成功しました。
２．後継稚樹の育苗に成功した品種 　山茶花の天然分布域は山口県が北限であることから、安国論寺の山茶花は椿との交配種と考えられますが、非常に原種に近い山茶花の品種と推測されています。関東では、元禄年間（１６８８～１７０３年）に江戸市中で 山茶花が流行し、多数の山茶花が植えられましたが、その後の戊辰戦争や関東大震災、東京大空襲などにより、元禄前後に江戸で植えられた当時の山茶花はほとんど絶えてしまいました。安国論寺の山茶花は、その当 時の様子を伝える現存する数少ない山茶花の品種と言われています。
３．育苗のプロセス （１）３５０年生山茶花の発根能力 　樹木は樹齢が高くなるにつれ、挿し木の発根率が低くなると言われているため、初めに今回対象とした３５０年生山茶花の発根能力がどの程度あるかを確認しました。資生堂と共同研究を進めている発根促進剤“ＫＯＤ Ａ”の施用濃度を０μＭ※２、１０μＭ、１００μＭと段階的に変えて試験を実施したところ、発根率はそれぞれ０％、２７％、７５％でした。このことから３５０年生山茶花には自力で発根する能力は残っていないものの、“Ｋ ＯＤＡ”は山茶花の挿し木に対して顕著な発根促進効果があることが判明しました。
※２：μＭ：マイクロモラー 　体積モル濃度のこと。Ｍ（モラー）の１００万分の１。Ｍは、ｍｏｌ／ｌとも表すことができ、ｍｏｌは物質量の単位。
（２）“ＫＯＤＡ”の効果について 　“ＫＯＤＡ”の山茶花の挿し木に対する効果をさらに解明するため、一般流通している２０年生の山茶花の挿し穂を用いて同じ条件下で発根試験を行いました。その結果、　“ＫＯＤＡ”がその発根を早めたり、根量を多くす るような作用はありませんでした。
　以上の結果から、“ＫＯＤＡ”は発根に直接作用するのではなく、老木の休眠を解除することなどによる代謝全体の活性化に作用し、発根し難い樹種、あるいは古木の挿し木増殖に威力を発揮すると推察しています。
４．今後の予定 （１）安国論寺の樹木の増殖について 　今回増殖に成功した山茶花の苗は住友林業筑波研究所にて育苗を行い、１ｍ程度に成長させたのち、安国論寺に植樹する予定です。また、妙法桜と海棠については引き続き増殖のための研究を続け、山茶花同様に育 苗、植樹する予定です。
（２）組織培養による増殖について 　組織培養（バイオテクノロジー）を用いた増殖は、組織自体の若返りが期待できることから、組織培養による増殖技術の開発も並行して取り組んでいます。