ID 14175
登録日
2009年 11月23日
タイトル
死ぬまでに5000本は見たい――巨樹サイトの絶えない愛
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新聞名
ASCII.jp
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元URL.
http://ascii.jp/elem/000/000/477/477456/
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元urltop:
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写真:
複数の写真が掲載されていました】
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ダムや水門、団地に廃道など、何かの魅力にとりつかれ、人生をも捧げる人たちがいる。今回取材した高橋弘氏が20年以上追い続けているのは、巨樹だ。
日本全国にある有名無名の巨樹を探し出しては出向き、その存在感に圧倒される経験を実に3000回以上も繰り返している。趣味のひとつから本職のライフワークに変わった現在も、まだ見ぬ巨樹への情熱は冷めてい
ない。
そんな高橋氏が1997年から運営しているサイトが「日本の巨樹・巨木」だ。これまでに出会った巨樹のうち、1000本以上の写真やデータ、エッセイを掲載し、10年間コンスタントに更新を続けている。総合的な掲載マッ
プのほか、樹種別のマップや樹齢樹高に関するコラムなども載せており、そのボリュームは辞典クラスといえるほどだ。
顔の見えるインターネット 第61回は、高橋氏を駆り立てる巨樹の魅力、そしてその足跡をネットに残す意図について伺った。
日本の巨樹・巨木
1988年から探訪を続けている巨樹の写真やデータを掲載している。スタートは1997年で、2009年11月現在の収録巨樹数は1000本強。単なる現地レポートにとどまらず、100年近く前の文献や、環境庁の公開データな
どを盛り込んでおり、樹高や樹齢などの詳細な情報がまとめられている。アクセス数は通常の日で600~700程度だが、Yahoo! ニュースなどでリンクを張られた際は数万単位に跳ね上がるという
― まずは、高橋さんと巨樹との出会いについて教えてください。
高橋 1988年当時はコニカ関連の現像所に勤めてまして、休みのたびに全国各地の観光地を巡るのが趣味でした。ただ、もうメジャーどころはまわりつくしていたので、じゃあ、人が行かないような日本の伝統的な史跡な
どを見てみようと思い、最初に行ってみたのが天然記念物に指定されていた巨樹だったんですよ。今は枯れてしまったんですけど、会津にあった「前沢の大杉」という巨樹でした。それを見て「これはすごいものがあるな
」と。
それ以来ちょこちょこと巨樹を巡るようになって、1年くらい経ったときに「巨樹の会」を主宰されている画家の平岡忠夫さんにお会いしました。サイトでは平岡さんとの出会いがきっかけと書いていますが、その出会い
によって余計弾みが付いたみたいです。
高橋
弘氏。公営の巨樹情報センター「奥多摩町森林館」にて、調査員兼解説員として活動する傍ら、環境省の巨樹データベースの管理も行なっている。また、日本火山学会会員でもある。趣味が仕事になると純粋な楽しみ方
を忘れるという人は多々いるが、高橋氏は「そういう変化は全然ないですね」という
―― 巨樹の会と合流して、現在の奥多摩町森林館に勤めるようになったわけですか?
高橋 いえ、10年くらい前まで同じ現像所に勤務していたのですが、会社統廃合の波が押し寄せてきまして、希望退職で辞めました。その後は完全に無職の状態で3年半くらい全国の巨樹を巡ってましたね。その間に全国
を二巡したと思います。それでお金がなくなっちゃったので、フォークリフトの免許をとって、倉庫で3年くらい勤めました。そして、5年前に平岡さんから「森林館に欠員が出たからこないか?」と誘われて、現在に至るとい
う流れですね。
―― なるほど。では「日本の巨樹・巨木」をスタートしたのは、現像所にいた頃ですかね。きっかけを教えてください。
全国の巨樹の写真とデータがメインコンテンツだ。現場で調べたデータに加え、脇によくある解説板や環境省所有のデータの併記もしており、場合によっては成長の度合いを測ることもできる。また、「お勧め度」や「到着
難易度」の指標は鑑賞しに行く際に重宝する
高橋 そうですね、現像所時代でした。PCに詳しい友人がいて、「それだけ巨樹の写真を撮っているなら、ウェブで公開したほうがいい」と勧められたんです。最初に見た前沢の大杉がその2~3年後に枯れてしまったん
ですね。そういうこともあるので、巡った巨樹は写真に収めておこうと考えるようになって、当時で2000本くらいの巨樹の写真を持っていたんです。
ただ、1997年の頃はフリーで使えるホームページ容量は5MB程度がほとんどで、写真を載せまくっているとすぐに足りなくなりました。そこで海外のサービスで「kyoboku.com」というドメインを取得してスタートしたわけ
です。写真をスキャナーで読み込んでアップしての繰り返しで、結構手間でしたね。最近はデジカメで撮っているので更新が楽ですよ。今掲載していないフイルム時代の写真は、もうめったには掲載しないでしょうね。
―― ただ、手間という意味では、各巨樹に関する歴史的な文献から言及箇所を引用したり、樹木のデーターベースから必要な情報を持ってきたりと、そちらのほうがすごく大変な気もします。もう趣味の域は完全に越え
ている気がするんですけど、ああいった情報はどうやって集めているのですか?
高橋 神田の古書街などに行って古い本を買ってきたり、知り合いの教授に文献を教えてもらったりして集めています。現職に就いてからは環境省の巨樹データを管理する仕事もするようになったので、そういうデータ
に触れやすい環境が整っているのも大きいですね。
基本的に飽きっぽい性格なんですけど、木に関してはきっちりやっているかなと思います。あんまり面倒くさいという感情が沸きません。ただ、フイルムをスキャンする作業だけは、ちょっともういいなかと(笑)。
― そこまでのめり込める理由はどこにあるのでしょうか。巨樹の魅力について教えてください。
高橋 とにかく大きさですよね。圧倒される迫力と大きさ。使い古された言葉ですけど、これはもう言葉にはできません。とにかく1回見てもらえば分かると思いますよ。神経を集中させるという意識も別になく、何も考える
必要もなく、ただ巨樹の前にいるだけでいいんですよ。それだけで何か感じるものがあると思います。俺は分からないですけど、人によっては「気がもらえる」「木と話ができる」と言っていますね(笑)。
ただまあ、木を見に行くカルチャー教室に参加した人で、朝は体調が悪いと言っていたのに、巨樹を見たあとはピンピンして帰って行く人も結構いるのは確かです。
あと個人的には、樹高よりも太さのほうが重要なんです。50メートルある細い木よりも、高さ30メートルでも幹周りが15メートルある木のほうが巨樹という定義にかなうと思うんですよね。だけどまあ、市町村では樹高で
競ったりしていますよね。「我こそ日本一」とうたっているところが3つくらいありました。
樹高や樹齢に関する解説記事がコラムとして掲載されている。50年以上前の公式データの情報も盛り込んでおり、情報の深みは参考書クラスだ
―― 大きな存在に圧倒されるというのは「畏怖」の感情に近いですか? 「ダムサイト」の萩原さんはダム、「Floodgates」の佐藤さんは水門で似たような感情がわくとおっしゃっていました。
高橋 そういうことなんでしょうね。だから俺もダムは好きなんですよ。よく見に行っています。水門は美的な感性も必要とされるだろうから、難しそうですね(笑)。
ただ、人工物と自然の物という違いはあるので、ダムにはそこまでのめり込まないと思います。学校の授業なんかでも、社会や国語みたいに人間が作ったものを学ぶより、理科みたいな自然の成り立ちなどを学習する
ほうが好きでしたね。今も地学は大好きです。
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