ID 14034
登録日
2009年 11月 7日
タイトル
住宅の庭にはどんな樹木を植えるのか
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新聞名
東洋経済オンライン
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元URL.
http://www.toyokeizai.net/life/column/detail/AC/fdebb558a1074bdffec7c210370c8d4b/
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元urltop:
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写真:
複数の写真が掲載されていました】
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なにしろ、暑いのが何より嫌いな私は、どうしたらその家の暑さを避けられるかについて、さらにあれこれと考えた。
決め手は、やっぱり樹木しかあるまい。
風通しよく、また冬の陽光を以て暖房に当てようとすれば、夏は必ず暑過ぎることが避けられない。これは、夏至の日の太陽光の射入角を想定して、それを避けるように小さな軒を付設するというような方法では、たぶ
んまったく役には立つまい。
なにぶん、日本の夏至はまだ梅雨のただ中で、日など射さないことのほうが多いからである。
問題は、九夏三伏と言われた7月下旬から、お盆そして8月下旬の晩夏の候である。
その頃には、陽光はかなり南に傾くにも関わらず、日照の暑さは盛夏とほとんど変わらないので、もし天井までの大きなガラス開口部を設けたならば、あらゆる希望的観測に反して、射し入る直射日光は堪え難い暑さ
を室内に齎(もたら)してしまう。 「やはり、南側には、すっかり窓を日陰にするような木を植えましょう」
私はそう提案した。 「どんな木がよろしいでしょうか」
設計の大澤さんは、そのことも既に重々考慮して、どんな樹種が適切であるかまで、計画にいれておられた。2人で、その木のことをあれこれ話していると、夢が膨らんでとても楽しかった。
大澤さんによる建築予定地模型。
まず絶対の条件は、「落葉広葉樹」であること。
杉や松などの針葉樹や、椎(しい)や樟(くす)のような照葉樹は冬も日陰になってしまうから不可である。 といって、桜などはまず自然の樹形が必ずしも美しくない上に、虫害が著しいから、農薬を散布しなくてはいけ
ないというような弊害がある。これもしたがって、庭に植えるものではない。
イチョウなどは、美しいし、見上げるような巨樹になって日陰を良くつくるしするけれど、これは注意深く雄株を植えないといけない。万一雌株を植えた日には、ギンナンが落ちて臭くてたまらない。
私の思うには、現在5軒の建築が予定されているこのサイトでは、家々にみな違う巨木を抱かせたらいいと思うのである。
1号棟はイチョウ、2号棟は柿、3号棟は柳、4号棟は欅(けやき)、5号棟は朴(ほお)、というように。
みな背の高い巨木となる木で、それもみな原則的に自然の樹形に任せたい。人間のこざかしい美意識などで、不自然に刈り込んで矮小化しないことが望ましいと思うのである。亭々(ていてい)と枝を茂らせる巨木の
緑陰に守られた家々、そんな住宅地があってもよかろうじゃないか。
現に、私の自宅では、敷地の南側には庭は存在せず、そこには、マテバシイのような常緑広葉樹を植えて南隣の家からの視線を遮る一方で、梅や柿のような落葉樹を植えて、夏場の緑陰と冬場の多少の日照を確保す
るようにした。そしてそれは実際、非常に快適である。
私の家の狭い南庭にひしと肩を寄せ合って枝を茂らせている柿と梅。こうやって肥料もやらぬのに、毎年よく実る。この柿は甘柿で非常においしい。梅は豊後梅でこれまた大きくて立派な実がなる。
右の茶色い壁が私の家で、建物の陰に目隠しのためのマテバシイが2本。それから玄関前に柳の若木が枝を風に揺らしている
そのほか、北面の玄関前の植え込みに、柳の枝を挿しておいたら、いつのまにか根付いて3年目の今年は棟ほどの高さにまで育って、もう堂々たる樹形となった。
そうして、この糸のような枝葉が、伸びること伸びること、もう何度か下の方を刈り込んだけれど、それでもどんどん伸びて、いつも涼しげに風に揺れている。この風に揺れる枝というのが大切なところで、つまり柳は風
を目に見せてくれるのである。ちょうど風鈴が揺れて風を見せながら、チリンチリンと涼しげな音を聞かせてくれるのと同じように、柳は、その揺れ動く枝と葉擦れのさやけさが驚くほどの涼しさを感じさせてくれる。樹形も
美しい。私は、まもなく、「碧柳居」という表札を書いて玄関に懸けようと思っているところである。
閑話休題。そんなふうに、家ごとに特色あるシンボルツリーがあって、「大きな柿の木の下の、『青柿舎』と表札の出ている家がうちです」なんて風になったら、いかにも楽しいなあと夢想したりするのである。
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