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ID 872
登録日 2006年 4月25日
タイトル
タイトル
又兵衛桜武将を偲ぶ 花の滝
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新聞名
新聞名 読売新聞
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元URL.
http://osaka.yomiuri.co.jp/balloon/bl60425a.htm
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元urltop:
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写真:
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 「花に染む心のいかで残りけん 捨てはててきと思うわが身に」西行法師  「さまざまのこと思ひ出す桜かな」芭蕉  桜にまつわる和歌や俳句は数多い。パッと咲いてパッと散る潔さが、日本人の心に響くのか。咲き初めを見上げて春の訪れを喜び、満開に心躍らせ、乱れ散る花びらに行く春を偲(しの)ぶ。
 奈良県宇陀市大宇陀区の「又兵衛桜」は樹齢300年。3世紀を超えて土地の人々を見守り、愛(め)でられた。実は、昨春もここで風船を上げた。連載の初回こそ「太陽の塔」に譲ったものの、心残したままでは落ち着か ない。
 大阪城5人衆と呼ばれた豪傑、後藤又兵衛(1560~1615年)の名を冠したサクラは、「本郷の瀧(たき)桜(ざくら)」とも呼ばれる。高さ13メートル、幹の太さは3メートルにも及ぶ。豊臣方についた又兵衛は大坂夏の 陣(1615年)道明寺小松山の戦いで東軍・伊達政宗の鉄砲隊に胸を撃たれ、臣下の介錯(かいしゃく)で果てた。だが、その又兵衛がなぜか落ちのび、この地で余生を暮らしたと地元には伝わる。サクラはその屋敷跡に 立つ。
 2日間の予定で現地に入ったが、時ならぬ冷たい風が谷筋を渡り、一向に晴れ間すら見えない。花びらに雨粒を乗せた老木がうなだれている。一回り縮んだように見える姿に、「今年はダメやな」と恨む声も聞こえる。
居並ぶ露店に名物のこんにゃく煮を見つけ、凍(い)てた体を温めて、「明日がある」と気持ちを取り直した。
 次の日も朝から曇り。準備だけは整えて天候の回復を待つ。しかし、山に囲まれた地形が強風を運び、頑固に撮影を拒む。午後2時。吹きやまぬ風に撤収を決めた。足取り重く桜井市まで車を走らせたころ、待ちわびた 日差しが車窓を射抜いた。「戻るぞ!」  果たして、つかの間の陽光を楽しむかのように、梢(こずえ)をいっぱいに広げた巨木がほほ笑んでいた。風船も機嫌よく昇った。傾きかけた日に映えて、大阪城を背に仁王立ちする後藤又兵衛の雄姿が、そこに見えた 。
 戦場に散った又兵衛と、この地で余生を送った又兵衛。彼の没後に植えられたサクラは、その真実を知らない。
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