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ID 9323
登録日 2008年 11月10日
タイトル
タイトル
:銀幕有情 樹の海(青木ケ原樹海)
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新聞名
新聞名 毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/enta/cinema/news/20081110dde012070055000c.html
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元urltop:
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写真:
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迷いの森、はぐくむ命  「とても広くてきれい。上から見たら気持ちも変わるのに」。眼下に広がる青木ケ原樹海の眺望に皆一様に歓声を上げた。富士山がよく見える紅葉台から歩いてさらに約20分。三つの湖が見渡せる三湖台で、長野県か ら来た里山を歩く会のグループに出会った。中高年が大半だが、足取りは軽く元気そのものだ。
 上から見下ろすと木々がうっそうとすき間なくつながっているように見える。この時期は茶や赤に彩りを変えた葉がコントラストとなり、いっそう美しい。青木ケ原樹海は富士山の山梨県側のふもと、富士河口湖町から鳴 沢村にかけて広がる原生林だ。
 「樹(き)の海」は脚本も書いた青島武プロデューサーのある思いから始まった。親しかった知人が突然自殺。考え抜いたあげく「自殺をしてほしくないという気持ちを映画にしたい」と、当時初監督作品を思案中だった瀧 本智行監督に持ちかけた。2人は「(自殺の名所と言われる)この森こそが主役」と決め、シナリオ作りやロケ地探しのために10回近く樹海に足を運んだ。
 観光スポット「富岳風穴」の駐車場近くに樹海の遊歩道入り口がある。数歩入った途端、体が冷気に包まれた。落ち葉が敷き詰められた土の道を歩く。木漏れ日がさす場所はわずか。昼間でもやや暗い。風もなく、まさに 静寂の世界である。
 木々の根が縦横に広がり、その上をこけが覆っている。岩の上や横をはうように伸びる木の力に驚く。折れたり腐ってしまった木や枝は、土になるのをじっと待っている。高低差も大きく、人が入れるほどの大きな空洞も 開いている。遊歩道から木々の中に20メートルも入ったら方向感覚を失ってしまう。ひっそりとはしているが生命力に満ちている。1時間半ほどゆっくり歩き、途中ハイキングの人たちとすれちがった。
 2人は遺留品から物語を構築していった。遺留品の生々しさに震えたこともあった。青島氏は今もこんな見方をしている。「数字的な根拠はないけれど、自殺をしにこの森に入ったとしても、出てきた人もたくさんいると 思いたい」。瀧本監督は樹海と対峙(たいじ)して「都会の人の海の中で迷っているのが今の私たち」。そして2人は口をそろえた。「自殺しようとする人に、解決の糸口を示すことなどできないかもしれない。それでも、死 んでほしくないと思っている人がいること、人と人とのぬくもりがどこかにあることを描いたつもりだ」  夕方近く、西湖コウモリ穴でネーチャーガイドツアーに参加した。富士山の歴史から樹海の特徴、植物など解説してくれた。ガイドの黒沢広光さんは「樹海の木々は十分に根をはれない。雑草さえ育たない。すべての生 き物が厳しい状況の中で必死に生きている。そこに命を捨てにくる人がいる」と悔しさをにじませた。
 「樹海の木は高さがほぼ同じ。冬には氷点下15度前後の寒さからお互いを守り、こけも木も共に生きている。森は生き物が互いに命をはぐくんでいる場所。人間も共生することを学べるはず」  黒沢さんは木の株に残るリスの食事の跡、イノシシがえさを探しに歩いた痕跡などを丁寧に教えてくれた。樹海を正しく理解してもらおうとツアーは4年前から始まった。町の公認ガイドは現在40人。周囲を見渡すと、 けなげにたくましく生きようとするものたちの生気が樹海にはあふれているように感じた。【鈴木隆】 樹木や生き物たちの生命力にあふれる樹海 ◇溶岩の上、広がる原生林  864年に富士山の北西山腹が噴火し、その時流れた溶岩の上に広がる原生林を「青木ケ原樹海」と呼ぶ。常緑や落葉、針葉の高木に覆われた森で、ツガ、ヒノキが最も多く、ヒメコマツ、ウラジロモミ、ミズナラなども。
美しい木が海のように見えることから樹海と名づけられた。
 東西約8キロ、南北約5.5キロと見られ、約3000ヘクタールと言われてきたが、最近では4000ヘクタールとの見方も。標高は900~1300メートルで、地表面は凸凹が激しい。土壌がまだでき上がっていないため、 こけが必要な水分を蓄えて木々を守っている。タヌキ、イタチ、テンなどの小動物のほか、野鳥も多い。
 ◇物語、木々のように絡み合い--05年公開  富士山麗(さんろく)青木ケ原樹海を舞台に、生きることの大切さを真正面から描いた群像劇。四つの異なるエピソードが樹海で生き抜く木々のように絡み合い、生と死のはざまに立つ人、踏みとどまって生きようとする 人をまぶしいほどの柔らかい視線で見つめる。04年東京国際映画祭日本映画ある視点部門の作品賞と特別賞(津田寛治)受賞作。05年公開。
 映画は「どうして死ぬの」「生きなきゃダメだ」と声高に叫ぶことはしない。そっと同じ目線でささやくのである。「あなたを必要としている人がいるよ」「あなたを見ている誰かのために」と。
 中でも、樹海で死んでしまった女性と一瞬だがかかわったサラリーマン(津田)と彼女の足跡を訪ねる探偵(塩見三省)が、新橋の飲み屋で語り合うシーンが心に染みる。樹海そのものは出てこない。1枚の写真をきっか けに、東京というもう一つの樹海の中で生きる難しさ、生きる意味に思いを寄せる。居酒屋を出て歩く2人の背中を映すカメラが優しい。
 主題歌の「遠い世界に」もいい。時にか細く、時に力強く、生きる希望がスクリーンからあふれ出てくる作品になった。1時間59分。ハピネットからDVD(税込み3990円)発売中。
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