ID 5342
登録日 2007年 11月11日
タイトル
シカの増加と食害をどうする・東京の森林を考える
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新聞名
JanJan
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元URL.
http://www.news.janjan.jp/area/0711/0711120548/1.php
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元urltop:
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写真:
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10月21日、東京都庁舎で「東京の森林を考える・シカ対策シンポジウム」が開催された。
なぜ都庁でシカのシンポジウム? ピンと来ない方は多いかもしれない。現在、東京都の奥多摩地区を中心にニホンジカが多く生息している。東京都だけでも約2000頭のシカが生息しているとの調査結果もある。
奥多摩という東京都が誇る自然の中で多くのシカが群れをなして生息している……一見すると心温まる話かもしれないが事態は深刻だ。
シカは草食性の動物で、非常に繁殖力が強い。密猟などの被害から1965(昭和40)年ころから数は激減し、東京都でもついに1976(昭和51)年、オスジカの狩猟が禁止された。しかしここから急激にシカは増殖する
。草地の拡大、地球温暖化による積雪量の減少など様々な原因が考えられるが、不明な点が多くいまだ解明にいたってない。
群れを拡大したシカはその群れを維持、拡大するために首都圏の山々を移動しながら生活を始めた。一夫多妻制で生後一年から毎年一頭ずつ子どもを生むことができるその生殖能力で群れをさらに拡大し、現在では
東京、埼玉、山梨県で約4000頭ものシカが生息しているとされている。そこで問題となったのが「食害」だ。
ニホンジカは基本的に植物ならば何でも食べる。最近の調査ではほとんど栄養のない、落ち葉でさえ食べていることがわかっている。また、シカは大食漢で、一日に一頭当たり3キロの植物を食べている。
シカの増加とその食性により、首都圏の山々では平均的なシカの口が届く範囲、1.5m以下の植物が食い荒らされ、いわゆる「はげ山」まで出現しているというのだ。この1.5m以下の範囲は「ディアライン」と呼ばれて
いる。
では植物が食い荒らされることによりどのような被害がでているのだろうか。
東京都では、ディアラインまでの下草や植えた苗木を食い荒らされる等の被害により土壌は貧弱となり、雨によって土砂が流出する。そして流出した表土が沢へ流れ込み、取水口をふさいでしまう。食べる下草、下枝
がなくなったシカが樹木の樹皮を食べ、木を枯らしてしまう、などの報告があった。
では、増えてしまったシカの数をどのようにコントロールするか。これまで各自治体がそれぞれの対策をとってきたというが、高槻成紀氏(麻布大学獣医学部)が言うように「シカも住民票などない」。各自治体による個
別対応だけでは不十分であり、自治体が複数で協力していくべき、というメッセージを込めたシンポジウムでもあった。
シンポジウムでは東京都、埼玉県、山梨県の3都県が各地域でのシカ被害とその対策を発表。今後はさらに3自治体の連携を強化していく方針を強調した。発表終了後のパネルディスカッションは、林業関係者、大学教
授など様々な顔ぶれで議論が進んだ。
そもそも日本の林業はそこにシカの姿を想定していない。高度経済成長時、針葉樹の育成のみに力を入れるあまり、陽のとどきにくくなった下草の発育は停滞し、シカの飢えは進んだという。
「シカ食害に対応するためにはこういった問題があるということを教育を通して広める必要がある」「林業の構造の中にシカを考慮すべき。そのためにはもう一度日本国内の林業に注目を集めなければならない」
このように、様々なアプローチで、シカと人間がどのようにつきあっていくかが議論された。しかしこの問題は、様々な環境問題を抱える日本においてまだまだマイナーな問題である観があり、大きな注目を集めるのは
難しいかもしれない。
パネルディスカッションでは様々な意見がでたが、まだまだ具体的な対応策や考え方も確立していないため、議論を深化させるのは難しかったようだ。
まだまだ明確な方針が打ち出されていないシカの食害対策。高槻氏が言うように「まずは東京にシカが必要かというところから話す」べきなのかもしれない..