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- ID:
- 39448
- 年:
- 2017
- 月日:
- 0830
- 見出し:
- 宮崎県諸塚村企画課長・矢房孝広さん(4)
- 新聞名:
- 産経ニュース
- 元URL:
- http://www.sankei.com/region/news/170830/rgn1708300049-n1.html
- 写真:
- 【写真】
- 記事
- 地場素材生かすネットワーク 諸塚村は、村の木材を使って、モダンな家具やインテリアを企画販売する「諸塚どんぐり材プロジェクト」に取り組んでいます
地方創生のカギになるのは、地域にある資源の商品化です。そのために必要なことは、自分たちが地域にある素材を発見すること、的確に評価すること、そしてそれを生かす技術です。当然ながら顧客のニーズとの一致も重要です
諸塚村は、日本でもトップクラスの原木シイタケの産地です。シイタケの原木であるクヌギやナラの広葉樹が、たくさんあります
ただ、原木に最適なのは20年程度の木です。太すぎると不適格材となり、シイタケ栽培に使う物としては、材価が半減してしまいます。高品質な広葉樹が豊富にあるのに、マッチングができていないのです
「でっかくなりすぎた木が生かせないか?」 これが、どんぐり材プロジェクトの発端です。旧知の東京のNGOからの提案で始まりました。森住八策の3番目「地域内だけで完結せず、外部の情報と人の交流を重視する」取り組みです
現代日本の「おしゃれな」衣食住を支えているのは、世界中から集めた物資ばかり。衣服は外国製、食材は洋食や中華はもちろん、和食でも外国産が主流です。住まいの家具や雑貨に使われている木材の多くは、グローバルなサプライチェーンを通しての世界からの調達です。どこかの海や川、どこかの森を破壊した素材かもしれません
一方、メーカーの生産拠点の海外移転が進み、肝心の生産技術も失われています。気づかないうちに、日本はものがつくれない社会になりつつあります
そのアンチテーゼとして、里山の広葉樹(どんぐり材)を活用していくプロジェクトが提起されました。普段の生活では、身近な素材を上手に使うことが一番理にかなう。地域の素材と地場産業の技術を融合させ、メイド・イン・ジャパンが支える都市生活を再興しようという試みです
とはいえ、顧客が評価しないものは売れません。不安はとても大きかった。それでも「本物や良い物は必ず評価される」という思いだけで走り出しました。NGOの知人の尽力が大きく、予想を上回る反響がありました
FSC森林認証の広葉樹が豊富な諸塚村に、一流家具の生産地や東京・表参道の環境家具のトップブランド、全国百貨店チェーンのギフトショップなどが結集し、ネットワークが生まれました。採算性、技術など多くの課題がありましたが、これまでの地方が東京ばかりを見ていた時代から、新しい「東京から森を思う」動きも幸いしました。人々が都市にないものを山村に求め始め、商品の向こう側にあるものを認識し始めるパラダイムシフト(価値観の変革)です
プロジェクトを通じて、地場産材と技術を活用した家具や内装材、スギの積み木などの商品が、世に出されました。心の通う国産材の木商品の市場は、まだまだ可能性があります
「企業は、顧客を獲得することを唯一の目的とする」という格言があります。資本主義社会は、大量生産・大量消費による商品の流通が主流で、規模勝負です。しかし、一つ一つものづくりをする多品種少量生産は、個別ニーズへの対応が可能です。決して時代遅れでなく、最先端の顧客獲得の手法ではないでしょうか。資本は小さいけれど、地場の素材が豊富で、手づくりの生産技術が残る地方が有利になります。誰かが大もうけはできませんが、協力し合ってみんなで実現できるはずです
森住八策の一番目「自分たちの夢見ることを、みんなで力を合わせて取り組む」、この小さな経済の活性化こそ、山村が勝負できる地方創生策と思っています
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