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- ID:
- 36869
- 年:
- 2016
- 月日:
- 1116
- 見出し:
- 芦生研究林 20年期限 存続へ多面的活用
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/local/kyoto/news/20161115-OYTNT50083.html
- 写真:
- なし
- 記事
- 京都大フィールド科学教育研究センター 伊勢武史准教授に聞く 府北部の南丹市に豊かな自然林が広がる。京都大フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林だ。1921年、「99年」という長期契約で地元住民から滋賀、福井両県境に広がる土地を借り受けて発足したが、2020年に借用期限が切れる。多面的な研究に活用され、トレッキングの名所としても人気だが、契約を更新するかどうかは未定で、管理には難しさもある。林長を務める伊勢武史・同センター准教授(44)(森林生態学)が、岐路に立つ研究林の現状と課題を語った。(聞き手・木村ひとみ) ――研究林の役割は そもそもは伐採して利益を得るために作られたが、あまりにも山深く、半分は手つかずだった。その結果、西日本有数の原生林が残されることになった
――現状と課題は 契約が更新されるかどうかは今のところ未定。維持するには、研究の成果を示さねばならない。かつては林業の研究さえしていればよかったが、林業が衰退する中、現在は多面的な研究が必要だ
――具体的には 森が人にどんな利益をもたらすか、という「生態系サービス」分野に力を入れている。2年前からは、学内の「こころの未来研究センター」の心理学の研究者と一緒に、「人はなぜ森に入った時に気持ちがいいと思うのか」を科学的に証明する研究を進めている
学生らに脳波計をつけて森に入ってもらい、リラックスしている時に出るアルファ波、緊張している時に出るベータ波の割合を測定する。森では川のせせらぎを聞くこともあれば、目の前の景色が開けることもある。どんな時に気持ち良さを感じるかを、数字で示すことができれば
――他に研究林の活用法は 全国の大学に研究や実習の場を提供している。2015年度には17大学から約850人を受け入れた。今は農学部系の学生がほとんどだが、森の持つ癒やしの力、美しさをアピールできれば、人文科学系や美術系の学生も増えるのではないかと考えている
――今後の取り組みは 国立大学も自己収益力の向上を求められる時代で、方法の一つがトレッキングツアー。現在も地元業者を受け入れているが、研究林保護の趣旨に賛同する参加者から任意の寄付を募るなど、一定の収益を上げられる仕組みを検討中だ。ただ、研究林は観光地ではない。「手つかずの自然」は遊歩道がないなど、ある程度の不便と危険がつきもの。無許可の入林はもってのほかで、正規のガイドがつくツアーを選ぶなど、特性を理解して参加してほしい
クラウドファンディングを利用して広く浅く寄付を募ることも考えている。研究目的からも、自然保護の観点からも非常に重要な場所。全力を尽くして守っていきたい
<メモ>京都大フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林 1921年に京大農学部付属芦生演習林として発足。2003年の同センター発足に伴い改称した。約4200ヘクタールの広大な敷地にはコナラやブナなど豊かな森林が広がり、ツキノワグマ、カモシカなどの大型哺乳類のほか、ヤマネなどの貴重な小型動物の生息が確認されている
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