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- ID:
- 36069
- 年:
- 2016
- 月日:
- 0805
- 見出し:
- 被爆樹
- 新聞名:
- 北海道新聞
- 元URL:
- http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/season/2-0071415.html
- 写真:
- なし
- 記事
- 広島に原爆が投下されてから、わずか10日後に芽吹いた木があるという。爆心地から1・8キロ離れた寺のボダイジュだ。「被爆すれば75年間は草木も生えない」と言われたのに、どこにそんな強さを秘めていたのだろうか▼専門家によれば、休眠芽が活動を始めたからではないかという。普段は成長を止めている芽が、死の危険にさらされると眠りから目覚める。広島出身の文筆家、杉原梨江子さんが著書「被爆樹巡礼」で、生き延びた170本の樹木を紹介している▼冒頭の寺で育った国分良徳(くにわけよしのり)さんは、あの日に母や弟、妹を失った。四国へ移住を考えていると、黒焦げのボダイジュに新芽を見つけた。父親は「これなら大丈夫。住み慣れたこの地でやり直せる」と決意したそうだ▼あまり気にも留めない木も必死に生きようとしている。希望と勇気が湧いた。同時に命を踏みにじるものへの怒りがこみ上げてきたという。国分さんは、その木の種から育てた苗木を「被爆樹2世」として全国に贈り続けている▼あすは広島原爆の日。2カ月ほど前のオバマ米大統領の広島での演説を思い出す。<核保有国は核兵器のない世界を目指す勇気を持たなければならない>▼格調は高いが、その後はどうか。米国は1兆ドルの新規核開発計画の旗すら降ろしていない。休眠している場合ではない。核廃絶が空手形に終わっては、生きながらえた被爆樹も嘆く。2016・8・5
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