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- ID:
- 35536
- 年:
- 2016
- 月日:
- 0530
- 見出し:
- <今月の言葉>5月
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/local/fukui/news/20160529-OYTNT50030.html
- 写真:
- なし
- 記事
- 「このままだと、職人が職人でなくなってしまう」 勝山市の重要文化財「旧木下家住宅」の中で、江戸時代に建てられた太い木の柱を眺めながら、大工・丸山登志成としみちさん(59)がぽつりと漏らした
修復中の民家を見学する参加者ら(勝山市の旧木下家住宅で)修復中の民家を見学する参加者ら(勝山市の旧木下家住宅で) 聞けば、職人の代表格とも思える大工にも時代の波が押し寄せているそう。木材は工場であらかじめ切り、現場では組み立てだけを行う「プレカット工法」が普及したことにより、大工が木材を加工する機会が激減しているらしい
危機感を抱いた県建築組合連合会の奥越ブロック会は、若手に伝統的な民家を建てる技術を伝える「大工塾」を2012年度から開いてきた。だが、担い手の減少や受講する若手不足で今年度で終わる
旧木下家住宅にみられる丸太の形を生かして柱を組み合わせる技術は、プレカット工法では再現できない。建築もなりわいである以上、効率も大切だろう。でも、奥越の古き美しい風景を守るのは、やっぱり「職人魂」を持った地元の大工さんであってほしい。(吉田雄人) ◇「いいところ、見させてもらったわ」 全日本カデ柔道体重別選手権の男子66キロ級で初優勝した福井工大福井高柔道部の大西希明のぞみ選手(17)。めったに観戦に訪れない兄(21)が大西選手に掛けた言葉は、頂に立った雄姿への称賛だけでなかった
初優勝の瞬間、会場に駆けつけていた兄の目の前で、日頃、厳しくも温かい両親が泣きじゃくっていたという。人前で親がそんなに感情をあらわにする姿を初めて見た兄。「いいところ」とは、ひと味違った<感謝>が込められていたのだ
当の本人は、表彰式とドーピング検査があり、その貴重な場面は逃してしまったが、兄の言葉が、家族の思いを知る機会となった。「親孝行がどういうことなのか、わかった気がした。高校最後のインターハイだし、勝って、また親を泣かせたい」。自分以上に喜んでくれる人の存在が、大西選手をさらなる高みへと突き動かしている。(浜畑知之) ◇「大観さんとは、何か月も家族のように過ごしました」 明治期から代々活躍してきた越前和紙職人・岩野平三郎氏が、横山大観ら著名な日本画家と交流し、もらった書簡や絵画が県に寄贈された。感謝状を手にした三代目平三郎氏の妹・敬子さん(83)は大観の絵を眺めながら懐かしんだ
今は日本画に和紙を使うのは当たり前だが、満足に表現できる紙がなく絹の布が使われていた時代。初代平三郎氏は画家たちの要望を聞きながら理想の紙を開発し、全国に広めたという
大観も、和紙への要望を直接伝えるため、平三郎氏の元へ足を運んだ一人。その姿を敬子さんは今も覚えている。一回来ると数か月は滞在し、平三郎氏の漉すいた和紙を何度も確認していたという
日本画家の表現への、そして、平三郎氏の紙作りへの、二つの情熱が生み出す「化学反応」に胸が熱くなった。書類の電子化が進み、越前和紙の生産額は減少傾向だが、日本美術に多大な貢献をした時代があったことが、一県民として誇りに思えた
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