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- ID:
- 41978
- 年:
- 2018
- 月日:
- 0703
- 見出し:
- <恵みの水を 豊川用水通水50周年> 2部 課題編(1)
- 新聞名:
- 中日新聞
- 元URL:
- http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20180703/CK2018070302000314.html
- 写真:
- なし
- 記事
- 山主は…「緑のダム」疲弊 豊川用水の東部幹線水路が眼下を流れる新城市大野の森林。一歩踏み込むと、日光が届かず草も生えない空間が広がる。地面には十数メートルの倒木が朽ちていた。「町の人は森の表面だけ見て『緑でいいじゃないか』と言う。でもここは間伐されてない疲弊した森。限界が近づいている」。かつて利水問題に取り組んだ元鳳来町長、下江利幸(80)は、立ち枯れの木に手を触れた
「緑のダム」。時に人は森林をそう呼ぶ。森林の土壌は水を蓄え渇水を予防する。雨が一度に山肌を流れることによる洪水も防ぐ。しかし、そこには「手入れが行き届いた」という前提がある。その前提がここ四十年で大きく崩れている
全国有数の森林率87%を誇る奥三河。戦後の植林政策で多くのスギやヒノキが密植され、林業で栄えたが、一九六四年に外材の輸入が自由化されると国産材価格は暴落。「数本切れば嫁入りは賄える」と言われた木の資産価値は下落し、七〇年代になると手入れされない人工林が急増し、山が荒れ始めた
密植された木は根を広く張れず、台風や大雨で倒木しやすくなる。県によると今後十五年間で間伐が必要な東三河の森林は三万六千ヘクタールあるが、昨年度の実績は約千八百ヘクタール。資金や人手不足に加え、間伐を阻むのが森林の所有者や境界の情報不足だ
「以前調べた設楽町の山は、半数の山主さんが故人か入院中、認知症だった。十年もしたら情報集約はより困難を極めるでしょう」。NPO法人「穂の国森林探偵事務所」(新城市)の理事長、高橋啓(51)によると、林業衰退で人々の関心が薄れ、相続放棄されたり名義変更されていなかったりする森林が増えている
所有者不明土地問題研究会(東京都)によると、二〇一六年度の林地面積における所有者の不明率は25%。所有者の意向がつかめないために、間伐や管理計画の策定が難しくなっている。こうした課題を解決するため、NPO法人「穂の国森づくりの会」(豊橋市駅前大通)は今、情報集約組織「森林情報センター」の設置の検討を進めている
下江はかつて「東三河は運命共同体」と訴え、流域の垣根を越えた水源地保全を呼び掛けた。その考えは〇五年、東三河旧十七市町村民が水道を一トン使うごとに一円を水源林保全に拠出するという全国的に珍しい制度として現実に。現在も一世帯約三百円、年間約八千万円が豊川用水の上流自治体に助成されている
下江は語る。「豊川用水で下流は栄えたが、旧鳳来町はダムが二つもできて多くの不利益を被った。でも、下流と上流の一体意識が生まれたと言えるとは思う」
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