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- ID:
- 29338
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 1228
- 見出し:
- 吉田町の五條さんが鎮魂の木像制作
- 新聞名:
- 中日新聞
- 元URL:
- http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20131228/CK2013122802000077.html
- 写真・動画など:
- 【図・表 】
- 記事内容
- 福島県南相馬市鹿島区南海老出身で吉田町に住む五條富子さん(63)が、東日本大震災で亡くした母親と義姉への慰霊として彫り続けてきた木像を完成させ、今月、故郷に建てた阿弥陀(あみだ)如来堂に納めた。「自分は震災を体験していないから母たちに申し訳ないという気持ちがあったけど、完成を
けじめにしたい」と前を向いた。
五條さんの実家は海岸から約二百メートルにあり、津波で流された。屋内にいた母桑折ハツノさん=当時(86)=と、車でハツノさんを助けに向かった義姉の加代子さん=同(62)=が被害に遭った。
震災後、被災者の体験を少しでも理解したいと津波の映像やニュースをかじりつくように見た。震災のことを考えないと忘れてしまいそうで、趣味の映画観賞をやめ、読書も被災を記録したものしか読めなくなった。
福島を度々訪れ、仮設住宅の住民と交流するボランティアをした。少しでも被災した人たちの心を鎮められる場所を作りたいと、実家があった近くの高台に阿弥陀如来堂をことし二月に建設した。
安置した木像の阿弥陀如来像は吉田町で彫刻講師をする伊丹隆久さん(65)が手がけた。木材は津波で流された加代子さんの車を覆っていたケヤキを使った。加代子さんの魂がこもっていると思い、地元の同級生高橋忠利さん(63)に大事に保管してもらっていた。
もともと自分で鎮魂の像を彫りたいと思っていた五條さんは、伊丹さんらの手ほどきを受け、同じ木を使って昨年九月から作成に取りかかった。
「感謝と祈りは同じ格好だと気付き、故郷や家族への思いを込めた」。一彫り一彫り、丁寧に心を込めた。穏やかな表情で正座し、胸の前で両手を合わせる女性の姿が出来上がった。
今月二十二日の奉納には同級生らも駆け付け、手伝った。その一人、細田広さん(63)は「心の復興の場にしたい」と感謝し、お堂を建てた大工の小林幸記さん(69)は「復興を願う気持ちでいつもお堂の手入れをしている」と話した。
五條さんは「(木像を)飾ったら涙が出た。これでやっと母と姉を亡くしたことに向き合える」とすがすがしい表情を見せた。
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