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- ID:
- 27441
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0417
- 見出し:
- 気候変動でワイン産地が移動する?
- 新聞名:
- National Geographic News
- 元URL:
- http://nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130415002
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 気候変動の影響で、ワイン生産の世界地図が塗り替えられる可能性がある。地球規模の温暖化のため、従来の生産地でのブドウ栽培が困難になるからだ。ブドウ園を別の場所に移せば生産面の問題は解決するが、慎重に管理しないと新天地の生物多様性が失われる可能性があるという。
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友人に教える
研究を発表したのは、コンサベーション・インターナショナル(CI)の気候変動生態学者リー・ハンナ(Lee Hannah)氏のチーム。局地的な条件を加味して気候変動のコンピューターモデルを作成し、ワイン生産への影響を分析した。
南米のチリやイタリアのトスカーナ地方は、ワインの名産地として有名だ。分析の結果、両地域でブドウを収穫可能な範囲が、2050年までに2~7割狭まる可能性があるという。
移動を迫られた生産者は、高緯度地域や高地に生産拠点を移すだろう。ブドウが持ち込まれた新天地は生態系のバランスがくずれ、在来の動植物がはじき出される恐れがある。
◆生物多様性に影響
ワインに適した生産地と生物学的に重要な地域が重なっているという点も、問題を複雑にしている。ブドウ栽培には、夏は高温乾燥、冬は温暖湿潤の地中海性気候が最も好ましい。
こうした地域は、世界的にも生物多様性が極めて高い地域と重なっているケースがある。元々危ういバランスの上に成り立っているが、より寒冷な気候を求めてブドウ園が高地に拡大すれば、健全な生態系が崩れるおそれが否定できない。
例えば、地中海沿岸地方には、1万2000種以上の固有植物が生育する。両生類の6割以上、爬虫類の5割、哺乳類の4分の1もこの地域の固有種だ。
CIのハンナ氏によると、自生する植物を掘り返し、肥料や殺菌剤を散布して作り上げたブドウ園は、在来の動物や植物にとって快適な生息地とはならない。
コンピューターモデルを使った分析では、温暖化後の世界でワイン生産に適している地域は、北アメリカの北部や北欧、ニュージーランド、タスマニア、チリ中央部だという。
◆大自然にブドウ園?
ハンナ氏らの発表した内容は、単なる予測ではない。変化は既に始まっており、カナダのブリティッシュ・コロンビア州のオカナガン・ヴァレーなど、かつてブドウ園とは縁がなかった地域で既に栽培が始まっているという。
アメリカ・カナダ国境付近のロッキー山脈地域は、現在、大規模な保全計画の対象となっている。アメリカのイエローストーン国立公園からカナダのユーコン準州まで広がる保護区を設定し、ハイイログマやオオカミ、プロングホーンなど、代表的な動物たちの分断された生息域をひとつなぎにする計画だ。こ
れまで、同地域でワインが生産された実績はない。しかし温暖化が進めば理想的な新天地として、生産者の触手が伸びる可能性がある。
「いまこの地域の放牧場は、野生動物の移動の妨げにならない。しかし、ブドウ園ならどうだろう。クマは果実に目がないし、ツルや葉をエサにする動物もいるはずだ。困った生産者がフェンスを張り巡らし、害獣として撃ち殺すようになれば、野生動物の往来が不可能になる」とハンナ氏は説明する。
意外なところでは中国だ。ワインの生産地としての名前はなかなか挙がらないが、急成長を遂げて既にトップクラスの生産国となっている。しかし、山岳地帯にブドウ園が広がっているため、パンダの生息地への影響を危惧する声もある。
◆動き始めた生産者
ワインとブドウ栽培の権威で、ハンナ氏らと同様の研究をしている南オレゴン大学のグレゴリー・ジョーンズ(Gregory Jones)氏によると、気候変動の影響には地域差がある。時間的猶予のある地域もあれば、早急な対応に迫られている場合もあるという。
「ワイン業界は既に動き始めている」と同氏は話す。アメリカのガロやコンステレーション、イギリスのディアジオなどワイン業界大手は、独自の戦略で気候の不確実性に対抗している。
「大手メーカーはおそらくリスク回避に動いている。例えば、広範囲の気候・地域に生産拠点を分散すればいい。この方法なら、嵐や干ばつに見舞われた地域があっても生産が止まることはない」とジョーンズ氏。「個人生産者などは、現在よりわずかに高緯度、高高度の地域へブドウ園を既に移し始めている。
中には、冷却効果を求めて沿岸部へ移動するケースもある」。
今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に4月8日付けで掲載されている。
Photograph by Milton Wordley, Photolibrary/Getty Images
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