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- ID:
- 27205
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0325
- 見出し:
- 御苑の樹木衰え 名桜の後継苗育成
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kyoto/news/20130324-OYT8T01067.htm
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 桜が春の色彩を放ち始めた京都御苑(上京区)。歴史的ないわれのある数々の名桜があるが、その中には老木化で衰えが目立つようになったものも少なくない。次世代にその美しさを残そうと、後継の苗木を育成する取り組みが進んでいる。(二谷小百合)
「昔より 名にはきけども今日みれば むべめかれせぬ糸さくらかな」
幕末の安政2年(1855年)、孝明天皇が近衛邸を訪れた際に目にした八重や一重の糸桜(枝垂れ桜)をたたえて詠んだ歌だ。近衛邸があったとされる御苑の北西付近には現在、約60本の「近衛邸の糸桜」が植えられている。
昨年2月にこの糸桜から枝を採取し、後継樹となるクローン苗木を増殖してきたのが、森林総合研究所の林木育種センター関西育種場(岡山県勝央町)だ。
今月13日、高さ50センチほどに成長した苗木7本が、京都御苑管理事務所に引き渡された。御苑内の苗畑でさらに育てられ、親木の衰え具合を見極めながら植え替えが行われる。同育種場の今井啓二場長は「由緒ある大切な木。残すことができてよかった」と安堵(あんど)の表情を見せた。
■ □
林木育種センターは2003年、巨樹や名木を対象にした「林木遺伝子銀行110番」を開設。接ぎ木などの手法を使い、遺伝情報が同じ「クローン苗木」を作っている。万一、親木が枯れてしまっても、同じ特性を持つ木が残るようにするためだ。全国に5か所ある拠点の一つ、関西育種場ではこれまで、兼六
園(金沢市)の根上松など58件のクローン苗を送り出したという。
同事務所が活用しているのも、この110番制度だ。樹勢が弱ってきた名桜について、11年から順次、同育種場に後継樹の増殖を依頼している。
昨年には、八重咲きの桜「御所御車返(ごしょみくるまがえ)し」の苗木が御苑に届けられた。江戸時代初め、後水尾天皇が外出の際に目にし、あまりの美しさに御車を返してもう一度見入った、という逸話が残る。
御苑の名木は桜に限らない。九条家ゆかりの「黒木の梅」の後継木も現在、同育種場で育成されている。
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御苑に今月引き渡された桜は、近衛の糸桜のほかにもう1種ある。白みを帯びた「市原虎の尾」。元は左京区の市原にあった八重桜で、戦後、1本が御苑内に植えられたらしい。
数年前から目に見えて弱っていたため、11年1月に枝を採取。木自体の活力が失われている中、2年かけてようやく後継の苗木を育成したが、その間に親木は枯死してしまった。苗木作りがもう少し遅れていれば、御苑から消えてしまうところだった。
御苑の名木について、同事務所の佐々木仁所長は「ここに植わっているということが意味を持つ。末永く残していきたい」と強調する。そのためには、樹勢に応じて適切に管理・保存していく必要がある。
週末、御苑に出かけた。桜は早くもほころび、すでに見頃を迎えているものもあった。50年後、100年後に生きる人々にも、この美しい御苑の春を堪能してほしい――。多くの花見客に交じって名桜を眺めながら、強くそう願った。
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