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- ID:
- 26467
- 年度:
- 2013
- 月日:
- 0111
- 見出し:
- 桐ダンス 火と湿気に強い
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/homeguide/history/20121221-OYT8T01026.htm?from=yolsp
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 昭和47年(1972年)2月18日 朝刊
よごれやすく、傷つきやすい…更生できます
入学、結婚シーズンを控えたデパートの家具売り場の主役は学習机とタンス。そのタンス、素材、作りも多様だが、このところ、安い合板ものに押されて頭打ちだった桐
きり
ダンスの売れ行きが好調だという。経済的に余裕が出てきた、和服ブームのおかげなどと、業者はいろいろ推測しているが、衣類を守るという素材としての桐のよさが見なおされてもいるようだ。▼桐は、まきにはならないといわれる。もちろん木だから燃えないわけではないが、燃えにくいのである。こんなエピソー
ドがある。安政大地震の時、各所に発生した火災をのがれ、江戸の人たちは江戸城前に避難しようと神田橋に殺到した。ところが、橋には長持ちが山のように積まれ道をふさいでいた。そのうちに長持ちに飛び火し、橋の付近は大混乱、多数の死傷者を出した。が、桐で作った長持ちに入れてあった衣類は燃
えずに残ったものがたくさんあった。火に強い桐が改めて見なおされ、火事とけんかが江戸の華であった時代、桐ダンス普及の一つのきっかけになったという。▼しかし、タンスに桐がよしとされてきたのは、燃えにくさよりも、湿気のしゃ断効果だ。衣類にとって、湿気は大敵。とくに和服のすそ模様や帯などに織り込
んである金糸、銀糸は湿気でさびてしまう。また、カビが発生して変色したり、絹、羊毛、木綿といった天然繊維は、カビによりセルロースが分解され、放置しておくと、ボロボロになってしまう。桐は空気が乾燥している時は通気性に富んでいるが、湿気が高くなると、湿気を吸って膨張して湿気をしゃ断、中の衣類
を守る。ひな人形の箱、あるいは掛け軸などを入れる箱に桐が使われるのも、中のものを湿気から守り、カビの発生、変色を防ぐためである。▼こうした桐の性質の秘密はどこにあるのだろうか。桐の気乾比重(含水率約15%における比重)は0.3。日本で生育する木の中では一番軽い。「それだけ空隙
くうげき
部分、いってみれば、あわのような小さなすき間が多いのです。このためかわいている時は通気性がよく、湿ってきたり、水をかけると、水分をどんどん吸収してしまう。空隙の多い桐は熱の伝導もおそいが、火事などで水をかけられると、水を吸収して、より一層、火への防御を固めるわけです」と、埼玉県工芸
試験場長の大沼加茂也さんは説明する。桐がまきになりにくいというのも、桐の生木は水分率が高いからだ。さらに、職業訓練大学校木材加工科の野田茂助教授は「一般に比重が小さい木ほど水の拡散係数、つまり、吸湿速度が早い。桐はケヤキに比べ3倍から4倍も早い。それだけ湿気に対する感度が
よいのです。タンスは密閉容器に近いが、引き出しなどにわずかなすき間がある。桐は湿気が高くなると敏感に反応して、吸湿しながら膨張し、こうしたすき間をとじてしまう。つまり“自動シャッター”のような働きをする」とも話す。湿気の多い日本では、家を建てる場合、通風のよさが条件であった。それほど湿気
に気を使った。その意味で、衣類の“住居”として桐が愛用されたのである。▼桐ダンスにも欠点はある。よごれやすく、傷がつきやすい。木が柔らかいため、ちょっとぶつけてもへこんだりしてしまう。材料不足で高値なだけに、この実用面での欠点は大きい。このため、総桐で作ったタンスの表面だけに、桜やチーク
を張った新しい桐ダンスも登場してきている。表面の堅い木でよごれや傷を防ぎ、内部は桐で守ろうというわけで、インテリアとしての現代性もあり、若い人たちに受けているようだ。なお、桐ダンスは古くなっても更生がきく。前板の厚みが5ミリぐらいあればけずり直して、しみやよごれ、へこみなどを直せる。
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