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- ID:
- 32546
- 年度:
- 2015
- 月日:
- 0225
- 見出し:
- ヒノキの間伐材を、寄木と木地挽きで美しいうつわに。
- 新聞名:
- T-SITEニュース
- 元URL:
- http://top.tsite.jp/news/o/22436263/
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- 記事内容
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ラ・ルースからつながる神奈川の森のはなし
神奈川県は、森林面積も小さく、林野率も低い。それでも県内には、丹沢大山や箱根といった山々をはじめ、県土の約40%、約9万5000ヘクタールを占める森林がある。県では平成18年に森の再生の方向と目指す姿を示した〈かながわ森林再生50年構想〉を公表。広葉樹の再生、人工林から混交林への転
換、人工林の再生を目指している。また、県産木材を積極的に利用してもらうために、〈かながわ木づかい運動〉を推進している。〈かながわ県産木材産地認証制度〉、〈かながわブランド県産木材品質認証制度〉というふたつの認証制度を実施。さらには、県産木材を使用する公共木造施設の整備に対して、
支援も行っている。
森を守るため、目の前にある間伐材を使ったものづくり
神奈川県小田原市は、寄木をはじめとした木工業が盛んだ。しかしその材料は、北海道や秋田などから購入している広葉樹である場合が多い。小田原に工場を構えるメーカー、ラ・ルースも、同様の木工所であった。
しかし4年前、森林再生への取り組みをしなければならないという思いに立ち返り、まず仕掛けたのがヒノキの鉛筆だ。
「小田原市と岡山県西粟倉村にかけあって、鉛筆を10万本つくり、そのときは飲料メーカーに納品しました。あんなに小さな棒1本でも、小学生ひとりひとりに渡せば1000万本以上になります。各県のヒノキでやれば、地元の森のことを考えられるツールになります」と代表取締役の相田秀和さんはいう。昨年も継
続して、1600ダースの鉛筆を小田原市の学校に納品したという。
その後、小田原市のある働きかけがあった。通常、木工所は市の産業政策課の扱いになる。一方、森林組合と製材組合は農政課の担当。一緒に森林のことを考えていかなくてはならない三者が、つながりづらい状況だったのだ。
「森林組合も、製材組合も、木工組合も、同じ建物にあればいいと思うんですよね」この3つをつなげたいという市の思いもあり、それこそ飲み会からの交流スタート。そこから見えてきたことは、小田原市の間伐材が生かされていない現状だった。
そこで、ラ・ルースは小田原市および郵便局と組んで、間伐ヒノキを利用した実物大のポストをつくった。そこに地元の小学生が、福島県相馬市で被災した人に向けて、木でできたハガキを投函して送るという催しが行われた。イベントではポストごと相馬市に運び、現地でも大好評。そのポストは現在、実際の“
郵便ポスト”として相馬市で使われている。
「このまちの、目の前に材料があるわけです。“だったらそれを使おうよ”と。針葉樹はたしかに加工が難しいです。削ればざらつくし、切ればバリがでる。でもうまく使えるようになれば、市場性もあるはずです」
ラ・ルースは、どんどん目の前=小田原の間伐材を購入している。使っていけばいくほど、扱い方もうまくなるはずだ。
「昨年1年間で、小田原市から出たヒノキの間伐材を20立方メートルくらい買っています。小物ばかりつくっているうちのような会社にとっては、相当な量です。ほとんどの木は斜面に生えています。建築材は真っ直ぐな4メートル材が必要なので、株から2メートルほどの曲がっている部分=元玉は、ねじれがあ
るので使えません。だからその部分は、案外、安価で流通しているんですよ。ぼくたちなら十分使える木材です」
寄木の伝統を、〈キジヒキ〉から〈ひきよせ〉る
ラ・ルースには、間伐ヒノキを使ったオリジナルブランド〈ひきよせ〉がある。ナチュラルな木目の美しさをデザインに利用して、うまく野暮ったさを抑えたうつわとなっている。もともとラ・ルースが買い取った工場で、昭和初期からケヤキを使った〈キジヒキ〉をつくっていた。日下部一郎さんにより創設され、現在では3代
目の日下部宜志さんがその技を受け継いでいる。
まずは1枚の板材を細い棒材にする。すると、中央に隠れていた割れや節などを発見することができる。その棒を取り除いたり、端と入れ替えたりしてから、また接着して1枚の板状に戻す。寄木の技術だ。もし最初の板材のまま加工して、見えていない中央内部に節などがあると、使えなくなってしまい、板1枚が
ムダになる。しかし、このやり方だとロスを減らすことができる。
その板を、断面が斜めになるように丸くふたつや3つの輪に抜きだしていく。内側の円板を底面に、外側の輪を上段に接着する。このとき、各段を90度回転して接着することで、強度を保っている。この仕様が、デザインとしても生かされているのだ。こうして平面の板から立体をつくり出すことができる。3つに切り
出した場合は、無垢の木材でつくった場合の3分の1の材料で済む。最後に木工ろくろを使い、木地挽きで仕上げていく。
接着や抜きの技術、木地挽きなど、キジヒキは門外不出の技術でつくられている。ほかの工場で同じものをつくっても、壊れてしまうという。職人さんの経験と技が息づいているプロダクトだ。
東京都主催のビジネスデザインアワードに出展したとき、キジヒキの、材料をムダにしないつくり方に注目したのが、カイチデザインのプロダクトデザイナー、山田佳一郎さん。“このすばらしいつくり方を、うつわをブラッシュアップすることで、広めていきましょう”と提案された。こうして〈ひきよせ〉としてリモデルされた
。
それまでは、ホテルやレストランなどの業務用が多く、家庭用ではなかった。しかしエンドユーザーにも普及させるべく、薄く削り、より角度をつけた。これもキジヒキで培ってきた技術があったからできたこと。
工場で、25年ほど前からこの仕事に取り組んでいるという日下部宜志さんにひきよせの製作風景を見学させてもらった。目の前で見る木地挽き作業はすごい迫力がある。
「ヒノキはやわらかいので、刃を常に研いでおかないと、すぐにめくれてしまいます」
たしかに、すぐ横に砥石を置いて、頻繁に刃を研いでいる。ひきよせでは、ミリ単位のより繊細なデザインが求められている。このわずかなこだわりが、美しい曲面を生み出すのだろう。
ヒノキの間伐材を使い、ロスの少ない製法でつくる。森林にやさしい製品は、手に持ったときにも、口をつけたときにも、やわらかい感触となって伝わってくる。
小田原の海から山へ、思いを馳せる
代表の相田さんはサーフィンを嗜み、若い頃から小田原の海に親しんできた。それだけに、環境の変化を肌で感じている。
「たとえばダムができたことで、波が変わったりします。環境が変わってしまったので、いまはお金をかけて海の砂利をさらったりしていますが、それもかつては自然がやっていたことです」
サーファーだから、海をきれいにしたいという思いが強い。その源は、山だ。
「相模湾をきれいにしたいと思ったら、山をきれいにしないといけません。そういう流れをみんなが感じて、ちょっと環境を整理しようと思うようになってきたんじゃないでしょうか」
そんななかでラ・ルースができることは、木工というアウトプットをもっと広めること。
「小田原には、さまざまな木工業者があり、職人も健在です。小口挽きもできるし、板挽きもできる。指物(さしもの)も箱物もあります。こんな土地は、世界的にも稀なのではないでしょうか。ひとつひとつのパイは小さいかもしれませんが、地域でまとまったらすごい。だから、日本中の木工のOEMをもっと引き受けてまちごとアウトプットできるような会社になりたいと思っています」
木に関わる業者が一致団結すれば、木工業は、まだまだいろいろなことができる。それが山や森を守ることにつながる。もちろん、それは海までつながっている。山と海が近く、木工が息づく小田原のポテンシャルは、まだまだ高い。
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