v10.0
- ID:
- 32093
- 年度:
- 2014
- 月日:
- 1223
- 見出し:
- 木霊の物語 巨樹が伝える地域の力
- 新聞名:
- 紀伊民報
- 元URL:
- http://www.agara.co.jp/modules/colum/article.php?storyid=286306
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
- 紀南地方の巨木や名木を紹介してきた連載「木霊(こだま)の物語」が完結した。2013年1月20日付の熊野本宮大社旧社地、大斎原(おおゆのはら)の社叢(しゃそう)からスタートし、14年12月21日付の南方熊楠が人生の後半を過ごした邸宅の庭に至る全100回。
樹種は30種以上が登場した。スギやヒノキ、紀南特産の梅、備長炭の原木のウバメガシ。寺社や校庭などでおなじみのクスノキ、南国情緒あふれるソテツやバンビ模様が鮮やかなカゴノキの巨木にも、格別の存在感があった。
新宮市熊野川町鎌塚平地区にあるトチノキも印象深い木の一つだった。幹回り6・3メートルという圧倒的な大きさに加えて、スギ林の中にたたずむ、その姿に威厳があった。地区の人が「水神」とあがめてきたのもうなずける。同じトチノキでは11年9月の大水害に耐えた田辺市熊野、百間山渓谷にある幹回り
5メートルの巨樹も見応えがあった。水際に立ち、こけむして鮮やかな緑色の幹には勢いがあった。
神社や寺だけでなく、住民が守り伝えた民家の巨樹も印象的だった。田辺市龍神村丹生ノ川の菅野地区では、幹回り6メートルもあるスギが庭にあり、みなべ町高野では、民家の裏に幹回り4メートル近いカヤがあった。以前、業者が買いに来たというが「守り神だから断った。寿命が尽きるまで守り継いでい
かなあかん」という所有者の言葉が心に染みた。地域を問わず、こういう人たちに支えられて、巨樹は500年、千年の命を保ってきたのだろう。
森全体の雰囲気にも引きつけられた。自然を崇拝した原始信仰の形式を残すといわれる古座川町峯の矢倉神社もその一つ。磐座を囲んで幹回りが5メートルを超えるスダジイが幾本も林立し、幽寂な雰囲気であった。すさみ町江住の江須崎は、昔から島全体が「自然の防波堤」となっているが、その島を
覆うのがスダジイ林。しかし近年、林内が乾燥して林そのものが衰弱してきているという。
取材先でよく聞いたのは「10年早かったら、生き字引のような人がおった」「5年前に亡くなった長老が詳しかった」などの言葉。だが、取材を進めると、その家族や近所のお年寄りが伝承や経緯など必要な情報を提供してくれた。巨樹のあるところには「地域力」があり、過去と現在がつながっていると実感させら
れた。
取材に応じた70、80代のお年寄りはみな、そのエピソードを「祖父から聞いた話」として語ってくれた。つまり、少なくとも130年以上は生きてきた伝承に光を当てたことになる。それを子や孫に伝えることで、歴史はつながる。その歳月の重みが、見るものの心にしみる。
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