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- ID:
- 51607
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0916
- 見出し:
- 一本松に希望の芽 接ぎ木 2本成功
- 新聞・サイト名:
- 東京新聞
- 元URL:
- http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011091502000200.html
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 岩手県陸前高田市の景勝地、高田松原で大津波の被害から唯一残った「奇跡の一本松」の接ぎ木に、地元の住民団体「高田松原を守る会」の小山芳弘副会長(60)が成功した。推定樹齢二百八十年の老い松は衰弱状態。万が一の場合も、津波に耐えた遺伝子を継ぐ苗木を育て「復興のシンボル」を
残そうとしている。 (諏訪慧)
造園業を営む小山さんは四月、風で落ちた一本松の枝から一部を選び、自宅で別の台木に挿したところ、二カ月後に七本のうち二本から新芽が出た。
現在も枯れることなく順調に育っている。
接ぎ木には独立行政法人「森林総合研究所」の林木育種センター東北育種場(岩手県滝沢村)も取り組んでいるが、成功したのは百本中四本だ。小山さんは「リンゴやナシの接ぎ木はやるが、松は四十年ぶり」と自身の成功に驚く。
高田松原は国指定の名勝。県内有数の海水浴場だった約二キロの砂浜に七万本が生えていた。小山さんらは唯一残った高さ二十八メートルの松を守るため、海水をポンプで排出する作業などをしてきたが、塩害や猛暑のため危険な状態が続く。
接ぎ木に成功した松は二年後に五十センチ程度に育ち、植樹が可能になる。ただ、砂浜は無残に削られ、植えるのに適した場所がない。市は高田松原の復活を十一月に策定する復興計画に盛り込む予定だが、海岸の復元方法などは未定だ。
仮に植樹ができても、松が二十メートルほどの高さになるには七十年を要する。「自分の代で松原が復活することはないでしょう」と小山さん。それでも「松原は住民にとって空気のような存在。なくなりかけて、絶対欠かせないものと感じている」。
子供や孫と散歩したり、地域の運動会に向けてランニングしたり、小山さんの思い出は数知れない。
若者のデートスポットでもあり、夏は海水浴の家族連れらでにぎわう。
市街地が焼け跡のように壊滅した陸前高田で、一本松は市民の記憶を伝えていく最後の象徴だ。「生活再建と一体で松を育てていきたい」。少しずつ伸びる苗木と街の将来を重ね、願いを込める。
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