v10.0
- ID:
- 51107
- 年度
- 2011
- 月日:
- 0727
- 見出し:
- 憤懣本舗「国の林野行政に翻弄され」
- 新聞・サイト名:
- 毎日放送
- 元URL:
- http://www.mbs.jp/voice/special/201107/25_725.shtml
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 月曜日は憤懣本舗。
今回は国の雇用促進制度で、林業に就いたある家族の憤懣です。
一家5人で静岡から和歌山の田舎町に移り住んだにもかかわらず、突然、森林組合から契約を打ち切られてしまった若き林業の担い手たち。
背景には、場当たり的な国の補助金政策と林業の抱える問題点が浮かび上がってきました。
和歌山県田辺市本宮町にある小さな集落。
<子ども>
「こんにちわぁー」
8年前からこの過疎の村に子どもの声が響いています。
子どもを自然の中でのびのびと育てたいと、杉山大介さん(39)一家が静岡から引越してきたのです。
<杉山さん>
「本当にとてもいいところなので。できたら本当に、ここに定住を志してきている」
<妻 里果さん(39)>
「子どもは物がなくても自分たちで遊びみつけるし、すごくたくましく育つので環境に育ててもらっていると感じる」
静岡の製紙工場で働いていた杉山さん、和歌山に来たのは「ある制度」により憧れの林業に携わることができたからです。
「緑の雇用制度」。
小泉政権下の2002年、林野庁は林業の担い手を育てるため、新たに林業従事者を雇うと補助金を出す制度を始めました。
この制度では最初の3年間雇い主に研修費として月9万円、指導費として1日5,000円など様々な補助金が支給されます。
不景気も重なり近年は採用人数が増え続け、毎年1,000人以上が都会から田舎へ移り住んでいます。
杉山さんもこの制度により、本宮町森林組合の作業員になったのです。
<村人・女性>
「だいぶ違うわねえ、やっぱりこの子らがおってこそ、私らも張り合いがありますわ」
<村人・女性>
「若い人がいると活気がある」
<村人・男性>
「本当にうれしい。年寄りばっかりだから」
収入は少ないものの、家族そろって自然の中の生活に杉山さんは充実した日々を過ごしていました。
ところが・・・
<杉山さん(記者会見)>
「3月31日付で森林組合を雇い止めになりました。半数の人間が職を失ったことになります」
今年4月、森林組合に突然、契約を打ち切られたのです。
<妻 里果さん>
「でかけてて帰ってきたら、お父さんが『ごめん、首になった』って。『はぁ?何の冗談?エイプリルフールか?』って感じですよね。4月1日だったのよ。この8年間何だったのかという気持ち。涙が出てきます」
<杉山さん(記者会見)>
「定住のために呼んでおいて雇い止めにする。のぼったハシゴを外されたような…」
本宮町森林組合では、「緑の雇用制度」で採用した作業員16人のうち実に8人が契約打ち切りになっていました。
なぜこうなってしまったのか。
森林組合を訪ねました。
<本宮町森林組合 杉山栄一組合長>
「一番の影響は制度変更ですね。このままではうちはどうもやっていけないですからね、どうしようもないですねえ」
組合長の言う制度変更とは、「緑の雇用制度」とは別の補助金制度のことでした。
そもそも安い輸入木材に押されている日本の林業は、毎年1,000億円を超える補助金に支えられています。
そのうち、最も高い割合を占める伐採に関する補助金が大きく変わったのです。
<杉山組合長>
「今までは、細い木は切ってそのまま山へ捨てるという保育間伐だった。だがこれからの政策は、みんな山から出して来いと。だけど(木材を)出す方法がない」
林業には、細い木を伐採する間伐が不可欠なんですが、間伐にかかった費用の実に7割が補助金で賄われています。
しかし間伐材は高く売れないため、これまでほとんど山に放置されてきました。
それが今年度から、間伐した木材を搬出しなければ補助金がおりなくなったのです。
<杉山組合長>
「これからは大きなエリアをまとめて作業道をつけて、(木材を)出したときだけ(補助金を)出す。でも林道は簡単にはつけられない。エリアは大きい、1ヘクタールや2ヘクタールではないから」
林野庁は「間伐材を売却し、森林組合に効率的な経営を求めるため」としていますが、林道整備ができていない本宮森林組合には、間伐材の搬出が難しく5.000万円の補助金が1,000万円に減らされる見通しです。
これでは作業員の削減もやむを得ないといいます。
では、他の森林組合はどうなのでしょうか。
制度変更について、和歌山県内25の森林組合にアンケート調査を行ったところ…
「急というよりめちゃくちゃです。組合の存続に係わる程の影響があります」「本宮町森林組合に限らずこうした雇い止め問題は起こると思います」(アンケート)
実に8割以上が制度変更により、経営に影響が出ると答えました。
「緑の雇用制度」で採用を進めながら、結局は彼らの首を切ることになる制度変更について、林業の専門家は苦言を呈します。
<京都大学農学部 川村誠准教授>
「(林野庁は)森林組合の経営が補助金で成り立っていることもわかっているわけですから、その補助金の仕組みを変える時とか政策を変える時に十分にそこのケアを考えないといけない」
しかし、一方で補助金頼みの森林組合にも問題があるといいます。
<川村准教授>
「林業経営の在り方そのものが転換を迫られている。工夫次第ではマーケットの価格に対応して収益が出せる」
そんな中、林業にも経営感覚を取り入れた森林組合も生まれつつあります。
京都府日吉町森林組合の湯浅勲さん。
昔から非効率な組合に疑問を持っていた湯浅さんは、様々な工夫をしてきました。
<湯浅さん>
「現状は今どうなっていて、どこが効率的でどこがまずいのか、どこが費用がかかっているのか全部理解しておかないと」
事務所の壁には、びっしりと作業の進捗状況が張り出されています。
そして極め付けがこれ、日本に2台しかないフィンランド製の林業専用重機を導入しました。
木を切り倒し、同じ長さに切断していきます。
<湯浅さん>
「この機械を導入するとたくさん仕事をするので、この機械がフルに働けるだけの仕事を段取りする必要がある」
効率的な経営をすれば、こうした最新機械も購入でき好循環となるのです。
再び本宮の森林組合。
契約を打ち切られた杉山さんは、途方に暮れていました。
<杉山さん>
「とても寂しい話ですね」
(Q.離れなくてはならないのですか?)
「離れないでいいなら離れたくない。やはり収入は必要なので、それを手に入れる手段としてここを出ざるをえない日もくるのかもしれない」
作業員の解雇は本質的な解決にはなりません。
真の林業再建のためには、森林組合・林野庁ともに長期的な展望を持って取り組む必要があります。
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