v10.0
- ID:
- 50404
- >年度
- 2011
- >月日:
- 0506
- >見出し:
- 本州南限ブナ林保護
- >新聞・サイト名:
- 読売新聞
- >元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/wakayama/news/20110504-OYT8T00634.htm
- >写真・動画など:
- 【写真】
- >記事内容
- 田辺市と古座川町にまたがる紀南地方の最高峰・大塔山(おおとうざん)(1122メートル)。昨年12月、コミネカエデやシロモジなどの幼木が小雨にぬれて輝く山頂に、和歌山森林管理署や自治体、自然保護団体の代表ら16人が集まった。「本州南限」のブナ林を全滅から守ろうと結成された「大塔山保全
検討会」のメンバーたちだった。
「多様な植物が芽生え、順調に回復している。シカの食害の心配はなくなった」。山頂を囲む金網の中で、南紀生物同好会副会長の水野泰邦さん(66)はそう言い切り、メンバーからも「予想以上の回復だ」と声が上がった。同管理署の植田修司調整官(47)は、保全策の成果に胸をなで下ろした。
ブナ林全滅の危機を招いた発端は、南紀熊野体験博を翌年に控えた1998年4月に遡る。体験博に向けて登山道を整備した古座川町の事業で、地元の人たちが眺望を良くしようと、山頂南斜面約2200平方メートルのブナやカシなど計419本を誤って伐採した。
うっそうとしていた山頂は、光が降り注ぐ広場に一変。自然保護団体「県自然環境研究会」会長の玉井済夫さん(77)は切り倒された樹木が横たわる現場に、言葉を失った。
山頂北斜面に広がる国の植物群落保護林に指定されたブナ原生林(29・57ヘクタール)は、広場の出現で日照と強風にさらされた。湿潤な環境を好むブナは地表の乾燥化で枯死し、強風で倒れる。玉井さんは「ブナ林は本州南限というぎりぎりの環境に耐えてきた。環境が一変し、全滅する恐れがあった」
と言う。
玉井さんらの助言を受け、管理署は急きょ、切られた木々で垣を組み、ブナ林のへりに並べて風よけにした。その後、植物は徐々に回復し、危機を脱するかに見えた。
2004年12月、山頂の幼木の葉やササがシカに食い荒らされているのを、水野さんらが見つけた。「まるで芝刈り機で刈り取った跡のようだった」。ブナの大木が何本も倒れていた。
07年8月、食害の拡大を防ごうと、管理署の呼びかけで「大塔山保全検討会」が設立された。玉井さんや水野さんも加わった。ブナの苗木を育て、ボランティアを募って植樹する案も出たが、玉井さんらは「人の手を掛けるのは最後の手段。自然の再生力に待とう」と主張した。
結局、植樹せずに、1600万円かけて山頂やブナ林の一部を金網で囲った。防風ネットも張り、昨年12月の効果確認につながった。
今も、危機が完全に去ったわけではない。しかし、水野さんは「幼木がシカの背丈を越えるほどに成長してくれたら」と、金網撤去の日へ希望を託す。
一方、玉井さんは、もう一つの感慨を口にした。「自然林を伐採して人工林に変えてきた管理署とは長年、対立関係にあり、『一緒にやろう』と誘われるとは思ってもいなかった。連携の貴重な実験場だった」。
植田調整官も「みなさんの知恵や知識を借りて、最善の対策が取れた。いい経験になった」と話した。
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