v10.0
- ID:
- 49114
- 年度
- 2010
- 月日:
- 1214
- 見出し:
- ものづくり高校生 熱く技磨き
- 新聞・サイト名:
- 朝日新聞
- 元URL:
- http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY201012130035.html
- 写真・動画など:
- なし
- 記事内容
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工業高校生が自らの技を競う競技会が、全国各地に広がっている。検定や資格に挑む生徒も多い。「ものづくり高校生」を熱くしている背景には、熟練工が減り、技術の伝承が難しくなってきた企業側が即戦力を求めていることがあるようだ。
■授業超えた技術も練習
11月初め、名古屋市の愛知県立名古屋高等技術専門校に作業着姿の工業高校生40人が集まった。自動車部品メーカーなど250社が加盟する同県溶接協会が呼びかけて開いた溶接競技会だ。「始め!」の声を合図に、薄暗い作業場のあちこちで青白い光が輝いた。
制限時間内に鉄板をつなぎ合わせて箱を作り、ミリ単位の精巧さを競う。女子生徒でただ一人参加した県立豊田工業高3年、山本恵里沙さん(18)は「授業では習わない技術が必要で、夏から練習してきた」と話した。
工業高校生を対象にした溶接の競技会は2006年に大分、岡山の2県で始まった。岡山県高校工業教育協会の赤木恭吾事務局長は「年々、確実にレベルが上がっている」と手応えを感じている。昨年からは中国大会に発展。他の地域では、2年前から九州大会、今年から関東甲信越大会が開かれてい
る。静岡、愛知、岐阜、三重の4県で東海大会を目指す動きもある。
全国の工業高校生が憧れる大舞台に「高校生ものづくりコンテスト」がある。全国工業高等学校長協会(全工協会=東京)が主催し、今年で10回目を迎えた。当初の参加者は旋盤や電気工事など5部門に約300人だったのが、今年は7部門に約2800人。予選を勝ち抜いた70人が10月、茨城県で開
かれた全国競技会で技を競った。
同県立水戸工業高3年、小口大輔さん(18)は今年の木材加工部門を制した。「レベルの高さは想像以上だった」と振り返る。競技会では、3本の木材が与えられ、3時間で屋根の骨組みを作る。差し金やノコギリ、木づちを駆使して木材を組む。組み合わせたすき間に名刺が1枚でも入ると減点だ。
木材加工は学校で習ったが、1年の時に10時間だけだったので、元大工の指導も受けた。担当の友部直哉教諭は、競技会に挑むことには「教室の中だけでは得られない効果がある」と言う。小口さんは建築士志望で、来春から大学で学ぶ。「大会は将来の目標を確認する良い機会になった」と話した。
■本番前の早朝特訓 盛況
検定や資格も盛んだ。特に人気なのは、全工協会による「ジュニアマイスター」制度。電気工事士、測量士、技能士など150種類の資格や検定と、約60種類の競技会の成績を点数化し、一定の点数を満たせば認定される。点数に応じて「ゴールド」「シルバー」の2種類がある。
ジュニアマイスターの認定者は、始まった2001年度は年間約4300人だったが、09年度は年間最多となる約8500人を数えた。
10年度前期で全国最多の160人がマイスターになった福岡県筑後市の県立八女(やめ)工業高では、競技会や検定が近づくと、通常の授業が始まる前の午前7時半から特訓する。自由参加だが、大半の生徒が出席するという。近藤博文教頭は「就職の際にも、検定や資格は目に見える形でアピール
できる」と言う。
■企業側「技術底上げ、即戦力に」
「中小企業を中心に即戦力の新入社員を求める傾向が強くなっている。高校生の技術を底上げしたい」。愛知県溶接協会の加藤喜久専務理事は、昨年から競技会を始めた狙いを語った。
名古屋市に本社がある特殊鋼大手の技術者だった。今は協会の会員企業から人材育成の相談にも乗る。「かつて企業は、本格的な教育は入社後にすれば良いという考えだったが、その余裕がなくなった」と明かす。指導を担ってきた熟練工が定年を迎えたり、機械化で最小限の人材しかいなかったり、生
産拠点を海外に移したりして、技術を伝える先輩が少なくなった。
一方、工業高の側も「教育機能が弱っている」と、愛知県内のある校長はみる。高度成長期に工業高が増えた際、生徒を指導したのは企業の元技術者たちだった。「実習助手」と呼ばれ、各校の裁量で採用していた。だが、20年ほど前から主に大卒の実習助手にとって代わられ、そうした元技術者たちが
次々と学校を引退したことが大きい。
各地の企業や業界団体、学校や教委は、企業から学校に技術者を派遣したり、生徒を企業に出向かせたりして技術の水準維持に努めている。
そんな状況にあっても、全工協会の村田敬一事務局次長は、自らが群馬県立前橋工業高で校長を務めた経験を踏まえ、「工業高校生は職業意識が強く、企業への定着率は高い」と誇る。
全工協会が06年度に就職した東海4県の工業高校卒2367人を対象に調査した結果、3年以内の離職率は22.3%だったという。単純比較はできないものの、同時期に就職した全国の高卒者全体の離職率44.4%(厚生労働省調べ)を大きく下回った。
ただ、工業高校生は減っている。全工協会によると、高校生全体に占める割合は、ピーク時の1970年は13.4%(62万4105人)だったが、昨年度は8.0%(26万7289人)まで落ちた。
村田次長は「ものづくり立国を掲げる日本に、工業高校生はなくてはならない存在だ。その人材をどう育てるのか。政府をはじめ、問い直す時期に来ている」と語った。
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