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- ID:
- 48494
- 年度
- 2010
- 月日:
- 1102
- 見出し:
- 《探訪 近代化遺産》 十和田ホテル
- 新聞・サイト名:
- 読売新聞
- 元URL:
- http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/akita/news/20101102-OYT8T00028.htm
- 写真・動画など:
- 【写真】
- 記事内容
- 幻となった1940年の東京オリンピックを前に、外国人観光客用の宿泊施設として建てられ、39年に開業した十和田ホテル(小坂町)。北東北3県から集められた宮大工約80人が腕を競い、客室ごとに異なる意匠を凝らした「秋田杉の館」は、61年の秋田国体に出席した昭和天皇・皇后両陛下が宿泊され、
吉田茂元首相、ライシャワー元駐日大使ら各界の要人からも愛されてきた。
昭和天皇を迎えたり、修学旅行で訪れた皇太子、秋篠宮両殿下を十和田湖畔の散歩に案内したりした元支配人の大森昌雄さん(72)は「これだけの方々が宿泊なさったホテルは、日本全国でもなかなかない」と胸を張る。
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「本当に、これを元の姿にすることが出来るのだろうか…」
96年から2年間、本館の保存修復工事を請け負った大成建設の社員、佐々木将さん(47)が初めて見た「秋田杉の館」は、建築から50年以上が過ぎ、往時の姿をしのぶことが難しいほど朽ち始めていた。
樹皮がはがれた客室の床柱など見えるところばかりではなかった。ホテルの「顔」である吹き抜けの玄関ホールも、測量してみると1か所が5センチ沈んでおり、基礎部分が腐っていた。
実際に柱を外したり壁を壊したりすると、思った以上に傷んで使えない材木が多かった。「図面ではわからないことだらけ」。佐々木さんと設計士、大工らは、できるだけ多くの材木を残せるよう、夜遅くまで解決策を話し合った。
一方で、宮大工たちによる仕掛けには驚かされた。使われている木材は「木は育った向きのまま使うのが良い」とされる通り、年輪の幅が狭い日陰側が北側に向いており、板目の模様を美しく生かした天井板にも舌を巻いた。大工たちは新しく使う木材も、のみやかんなを振るって手を加え、館のそこかしこに
隠された大工の知恵もそのままに復元することに心を砕いた。
大改修を終えたホテルは98年に営業を再開。変わらぬ佇(たたず)まいで客人を迎え入れている。
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佐々木さんは今、宮城県内で大規模工場の建設に携わっている。ものづくりは楽しいが、日々向き合うのはコンクリートなどの“冷たい”素材がほとんど。木は、伸縮して割れたり腐ったりもする難しさはあるが、香りや温かみがあり、湿度を吸収し、木の建物では夏は涼しく冬は暖かく過ごせる。
“生きている”木と対峙(たいじ)し、日本人にとって大事な木のぬくもりを守った十和田ホテルの修復工事は自分の誇りであり、「一生忘れられない仕事」だ。故郷の青森県を訪れる際は、妻と昼食のためにホテルに寄り、本館を眺めて工事の苦労を語ることもある。
維持や修復に時間も金もかかる木造建築は、敬遠されて取り壊されるものも多く、手がけられる技術者も減っている。「十和田ホテルの意匠を見て木造の素晴らしさを感じ、木造建築をやりたいと思う人が出てほしい」。佐々木さんの切なる願いだ。
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