ID :
237
公開日 :
2006年
2月 5日
タイトル
[古い家のディテール
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新聞名
http://www.asahi.com/housing/diary/TKY200602060096.html
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元urltop:
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写真:
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昭和30年代に建てられた建築家の自邸を見せていただいた。現在は、一部が貸しギャラリーとして使用されている。
長押(なげし)、欄間、明かり障子、木の窓枠のガラス戸。古い家はいいなあと、またいつものようにため息がもれた。
古い家はなんといっても建具がいい。建具のひとつひとつは目立たないし、存在感が強いものでもない。だが、毎日触れ、目に入るものであるから、暮らすとなると気になる大きな要素のひとつだ。
10年前、子どもを育てるなら戸建てに住みたいと思って引っ越したことがある。緑の豊かな郊外で、家の前にままごとができるくらいの小さな土の見えるスペースがある。新築のきれいなタウンハウスだった。しかし、
都心から遠く、仕事に不便だったことや、アトピー食対応の保育園がなかったことが原因で、1年足らずで越してしまった。
好きで選んだ賃貸だったが、アルミやスチールドアの玄関が最後まであまり好きになれずに終わった。すべての質感が、学生時代によく遊びに行った友だちのアパートに似ていた。新しくてきれいで丈夫だけど、軽くて無
機質で隣と全く同じ。工場でユニット化され、現地で取り付けられたアルミやステンレスが、家中の開口部にはめこまれている。すべてが規格化された住まいの中にいると、どことなく息詰まる思いがした。
古い木造住宅にみられる木製の建具は、その家のサイズに合わせて作られる。建具屋さんが作る木の造作には、手仕事の痕跡が感じられるし、木のあたたかみは部屋全体の印象を和らげる。今は木製建具のユニット
もたくさんあるが、熟練の建具職人の仕事には美しさも風格もかなわないと思う。
私もそうだったように、建具の素材やディテールにこだわる人は少ない。また、建築法や防火の面から考えても、木製サッシやドアがはやらないのは理解できる。古い家に住んでいる友だちは、「窓のそばはすきま風が
あって、寒すぎて近寄れない」と嘆く。
だが、そういういっさいがっさいを差し引いても、私は木製の建具にあこがれるのである。