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ID :  15790
公開日 :  2010年  4月12日
タイトル
[<熱帯雨林の叫び>(7) 村から消えた安心感
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新聞名
中日新聞
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元URL.
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/cop10/list/201004/CK2010040802000138.html
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元urltop:
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写真:
  写真が掲載されていました
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 真っ赤な太陽が水平線に沈み始めた。波打ち際の倒木の周りで、子どもたちがはしゃいでいる。朽ち果てようとするマングローブの倒木が、熱帯雨林の歩みを物語るよう。「昔はもっと森が広がっていてね 」。浜辺に腰を下ろしたサティ・スダルリスさん(64)は、遠い目をしている。
 インドネシア・マルガスリ村の沿岸はかつて、広大なマングローブ林に覆われていた。幾筋にも分かれた根を地面に下ろし、土をしっかりつかまえる。波風から村を守る自然の防波堤でもあった。
 硬く丈夫な幹は、住宅や家具の材料となり、木炭にもなった。種をしぼったシロップは飲み物に。目薬や下痢止め、染色材料としても使われる。
 海岸のマングローブがなくなり、村では高波による浸水被害が相次ぐようになった。「昔は何とも思わなかった森が、本当は安らかな暮らしを与えてくれていた」。スダルリスさんは実感する。
◆伐採で知る津波の恐怖  村では25年ほど前から、エビの養殖池をつくるため、マングローブの森を切り開いた。自然の防波堤を失った海辺は地表がえぐられ、海水が陸地に流れ込んだ。
 スダルリスさんの家は海岸線から100メートルほど離れた村の外れにある。満潮になると、浸食された地面を伝わり、ひざまで海水が押し寄せた。高床に仕立てた家の真下に流れ込み、波立つと床板のすき間から水が 噴き上がる。床や便所は水浸しになり、異臭が漂った。不潔な水に触れるためか、20人いる子どもや孫は、何度も激しい下痢に見舞われた。
 「水が来るたび怖かった。でも仕方ないと、あきらめていた」。5年前、海岸沿いに高さ2メートルの防波堤が築かれ、ようやく浸水は収まった。堤防の裏には今も、浸食の傷跡が残る。でこぼこの赤い地面がむき出し。マ ングローブの残骸(ざんがい)が散らばり、子ども用プールのような浅い水たまりがいくつも広がる。
 「今、津波に襲われたら、私たちは全滅でしょう」。人工の防波堤に、マングローブのような安心感はない。
    ◇  マグニチュード(M)9・0の地震による大津波で、アジア各地に死者22万人余を出した2004年12月のスマトラ沖地震津波。日本政府の調査団はマングローブの恩恵を目の当たりにした。
 マングローブが伐採された海岸では、ヤシの木がなぎ倒され、根元から土壌が削られた。倒木と土砂が一度に陸地を襲い、被害を大きくした。これに対してマングローブの群生地では、密集した根が津波の威力を弱め 、背後のゴム園の被害を抑えたという。
 熱帯雨林とマングローブを壊すことは、生き物たちの頂点に君臨する人間の生命をも、脅かしている