ID :
1710
公開日 :
2006年
9月25日
タイトル
[山林の荒廃 生物の多様性育む計画を
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新聞名
http://www.komei.or.jp/news/daily/2006/0925_01.html
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元urltop:
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写真:
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野生獣も逃げ出す
山林の荒廃がとまらない。国土表面積の7割を占める森林は泣いている。そこを餌場としていた、クマ、イノシシ、ニホンザル、シカなどの野生獣は、生物多様性が劣化した森から逃げ出して人里近くの畑や果樹園、場
合によっては住宅地にまで出没し、人々の暮らしや人命に多大な危害を加えるケースが急増した。山林や森をすみかとして生きてきた鳥類も、村や町に生活の場を移している。フクロウやタカなどの猛きん類は、荒れ果
てた山間部では餌となる小動物を見つけづらく、生息の地域を狭められつつある。
今日の山林荒廃は、戦後の急激な木材需要の増大を当て込んだ、全国的で大規模なスギやヒノキの植林に端を発する。これらの人工林では、1960年代になって外材の輸入自由化による国産材の値下がりにより利益
が期待できないとなると、必要な作業が放棄されて久しい。森林所有者の不在村化と伐採して資源にしたいとの意欲の低下がそれに追い打ちをかけた。加えて山村人口の高齢化や過疎化、林業従事者の激減により、森
林の健全性は急速に損なわれてきた。国有林も例外ではない。国有林野事業特別会計の仕組みにより、一斉伐採、スギ、ヒノキ植林を軸とする「拡大造林計画」を大規模に推進してきた。
はじめはこれらの森や山林では、苗木が光を求めて真っすぐ伸びるように密集して植林する。苗木の成長に即して、間伐、下枝打ち、広葉樹の混植、下草環境の整備、倒木や枯れ枝の排除など不断の人手を経て、豊
かな林相が形成される。ところが打ち捨てられた山林では、密集してモヤシのように伸び、成長を止めたスギやヒノキが、春ともなれば大量に花粉をまく。いまや“国民病”となった花粉症である。植林から50年以上経た
これら高齢級の人工林では、樹間に光が差さない。根や下層植生も育たない山肌の保水力は劣る。豪雨で各地に無残な赤土の痕跡をとどめる山地災害の元凶だ。枯れ枝・倒木が放置された急斜面は山火事にも無防備
である。
森林・林業の振興に関して政府は森林・林業基本法(1964年法律)に基づき、おおむね5年ごとに見直す総合的な施策に取り組んできた。現行計画の見直し時期に当たる9月8日、「森林の有する多面的機能の発揮」と
「林産物の供給および利用」を骨子とする、新計画が閣議決定された。
島崎藤村は『夜明け前』で、「山木と共にありたい」木曾の人々の心にふれ、尾張藩の山林経営は「十露盤ずく」では合わないと記す。山地災害や下流域の治水だけでなく沃野を育て海の豊穣化を促すなど、往時の山林
経営は森林の持つ多面的機能を重視した。鳥獣保護の観点からも生物多様性に根ざした森林相が不可欠となる。その意味で森林問題は環境問題に直結する。2005年4月28日に閣議決定された京都議定書目標達成計
画に即して健全な森林の育成・管理が急務とされるゆえんだ。
持続可能な姿を
山村は森林を支える基盤であり、そこに人々が定住しうるためには、「林産物の供給および利用」のサイクルが円滑に機能する必要があろう。「山木と共にありたい」人々が暮らせればよしとするだけではない。景観的
にも美しく、若者が夢と希望を抱きうる活力ある林業の復興像、持続可能な森林管理の仕組みづくりが、真摯に模索されなければならない。