ID :
14528
公開日 :
2009年 12月23日
タイトル
[荒川俊治 エス・バイ・エル社長――この会社の立て直しは俺しかできない
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新聞名
東洋経済
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元URL.
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/b071317864df722027a0eb91a420fecc/page/1/
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写真:
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木質系ハウスメーカー中堅のエス・バイ・エルは12月22日、臨時株主総会で正式に荒川俊治氏を社長に選任した。荒川氏は積水ハウスで30年以上、主に営業畑を歩み取締役常務執行役員を退任後、200
8年4月に就任した積水ハウスグループの積和不動産関西の常務取締役を任期途中で辞職、今年9月にエス・バイ・エルの執行役員副社長に就いたばかり。メインバンク出身者を除けば外部からの社長招聘はエス・バイ
・エルの歴史上初めて、同業ライバル他社の役員出身、副社長就任から在職3カ月、という短期間での社長就任と異例づくしの社長誕生は、住宅業界では注目を集めている。
エス・バイ・エルは2005年12月に野村證券系列の再建ファンドであるユニファイド・パートナーズの約96億円、40%相当の出資を受入れ、同社と二人三脚の経営再建に努力してきた。06年3月期に330億円もの巨
額最終赤字を出した後は、小幅ながら営業黒字を出すまでに収益改善を果たしているものの、肝心の主力戸建て住宅の販売規模は縮小傾向から脱していない。住宅市場は08年までの年間100万戸着工から今年は80
万戸時代に突入。戸建て住宅市場の縮小に加え、大手ハウスメーカーと、都市部を中心に低価格の分譲戸建て住宅で勢力を伸ばす新興パワービルダーとの挟撃で苦しい状況が予想される。
荒川新社長にエス・バイ・エルに招聘され社長就任に到った経緯や社内改革・経営立て直しへの抱負、実行プランなどを聞いた。
――入社、社長内定の経緯は?
3月に打診がありました。社長含みの正式オファー、というよりは、その時点では、こんな話がありますが、という程度のもので、サラッと話を聞いた程度です。その後、徐々に具体的な内容を聞かされるようになりました
。何回か関係者とは会って、この会社でやろう、と思うようになってから条件を出しました。33年半もいた積水ハウスグループに対して、いきなり私から先に辞表を出し、エス・バイ・エルに異動するのは礼に反する、と思
ったので、本気ならば和田勇(積水ハウス)会長に直接会って頼んでくれ、と言いました。辞めるにしても積水ハウスや入社以来長い間上司だった和田会長には礼を尽くしたかったのです。そういうプロセスなしでは転職
はできません。
積水ハウスの和田勇会長には、心情つづった手紙で礼尽くす
――和田会長とは話をしたのですか
私が腹を決めるのとほぼ同じ8月10日ごろに「荒川さんをいただきたい」と関係者が和田会長に申し入れました。和田会長はイエスともノーとも言わなかった、と聞いています。その後、和田会長から私には話はありま
せんでした。
2週間くらい経って、これ以上待てないと思い、和田会長に私の思いをつづった手紙を書きました。「退職届」とは書きませんでしたが、退職願みたいなものです。名古屋東営業所に配属の時、上司だった時以来の和田会
長へのお礼、感謝を述べた上で、まだ十分恩返しができていないのに、こういうお願いをするのは心苦しいが、困っている会社から強いオファーを頂いて、自分の経験、能力を生かして住宅業界への御返しを身体を張っ
てやってみたい、そのことをお認め頂きたい、という内容です。手紙は親展で秘書部に渡しました。
その2日後にアポイントが取れて、和田会長が私を会長室で待っていてくれました。「住宅業界もエス・バイ・エルも大変だけど本当に行くのか?」と言われました。
――経営立て直しに自信があるのですか
積水ハウス時代には赤字支店を日本一の支店に変えるとか、そういうことを何度もしてきました。エス・バイ・エルの立て直しには私しかいないと思っていますし、そこによく目をつけたな、と驚いています。
――大株主のユニファイドとはどういう話をしていますか
ユニファイドの清水通徳社長は「荒川さんにすべてを任せますので、好きなようにやってください」と言ってくれた。全権を委ねる、ということです。私も任せて貰えないと困るんですが、私から要求する前に言ってもらえ
ました。ユニファイドも清水社長も非常に信頼できるパートナーだと私は思います。
――エス・バイ・エルの松川敏夫前社長とは?
何度も話をしていていますが、価値観は非常に共通しています。入社前に私が「ES(従業員満足度)とCS(顧客満足度)を最優先する」と言ったときも、まったく同じ考えでした。SS(株主満足度)を無駄にする、という意
味ではないので、誤解しないでください。ESとCSを100%実行していけば、結果的にSSがいちばん良い物になる、ということです。この会社の改革についても松川さんとは根本的な考え方はほとんど一緒です。
開発・営業等は社長直轄に、支社は半減、支社長も大胆に代える
――エス・バイ・エルには販売・商品戦略がなかった、と厳しい発言をしていますが
今までは改革の中心が、ユニファイドなのかエス・バイ・エルの社長なのかが不明瞭でした。部分最適を追求していて、根本改革になっていないモノが多い、と感じます。
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委員会とかプロジェクトチーム(PT)が多くて、そこで決定したことが他の部署の足枷になっています。この間もある企画をストップさせました。会社全体の軸がない、ベクトルが一つになっていません。本社も支店も組織
の全てを見直します。営業改革を期待されていると言われていますが、その営業改革をするにしても営業部門だけの改革では、すみません。
――副社長の3カ月間で改革の方向は見えてきましたか
会社の問題点は、ほぼ把握しました。ほとんどがタテ組織になっていて、横串が入っていないし、リーダーもいません。19支店すべてを回りましたが、「こんな給与体系ではやる気になりません」という声がありました。モ
チベーションの上がるような給与制度に直します。他にも間接要員がたくさん必要になる仕組みになっています。こういうことは数え上げればきりがありません。だから全てゼロベースで見直さないとダメです。
来年の4月1日には組織改革を一斉に行う、と社員にも発信していますし、そのための準備にも動いています。もっと付加価値があり、売れる商品の開発を社長直轄でやります。営業部隊も社長直轄にします。
――社長が営業本部長を兼ねるのですか
いや兼ねません。営業本部長という制度自体をやめます。営業本部長、その下のブロック長もいりません。支店長を社長直轄にします。支店長はいま19人いますが、合格ラインは数人しかいません。4月1日に19店を6
~10店に統合し、大型店化します。
――支店長は大きく代えるということですか
ドラスティックに代えます。19支店中、私の見たところ支店長の能力があるのは数人しかいません。だからその数人以外は全部支店長から降りてもらう。12月4日に支店長と本社の幹部全員を集めた会合で、「支店長と
いえども一営業マンになってもらう覚悟をしてくれ」と言いました。支店長だけでなく、本社の役員・幹部も含めて全部見直します。役員は残念ながら6月改選ですから、4月1日は間に合いませんが……。12月4日に松川
社長(当時)を横にして、社長の了解も得ていませんでしたが、私の独断でかなり厳しく言わせてもらいました。
社員にはエス・バイ・エルの現状認識をしてくれ、というペーパーを出しています。今回の賞与カットの理由と、今回の黒字は工事進行基準によるものである、という認識をきっちり持って欲しいと厳しいコメントを書きま
した。その中には、こういうカットは今回限りにしたい、という温かいコメントもあります。ただ、これは自分ひとりではできない、私はこういう覚悟でこの会社に来たが、みんなが同じ御輿を私と同じ考えで担いでくれないと
できないよ、と言っています。
――精力的ですね
いまのところ自分で全部見ないと怖い。たまたま、ある本社の重要な会議に出たところ、ネット住宅に長期優良(の住宅装備)を標準化する、という議題が上がっていましたが、私は、ネット住宅に関してはオプションで
良い、と拒否しました。ネット住宅部門の社員からは「ネットの生命は価格だが、仕様が変わるたびに値段が上がっていって、ネットの商品価格帯から逸脱していくような危惧を持っている」という声が上がっていました。ネ
ット部門のの責任者も、「助かりました」と言ってくれました。現場のことが見えていない人がゴーを出す、決済してしまうところがまだあります。
エス・バイ・エルの現状の全社の年間戸建て住宅の販売棟数は1200棟(ネット住宅含む)、ネット住宅を除くフェース・トゥ・フェースの営業マンの数は282人、営業マン一人当たりの年間販売棟数は2棟となっている。
荒川社長は5年後に営業マンを500人、1人当たり販売棟数を6棟、全社販売棟数3000棟に目標を掲げている。