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木造建築のネツト記事
ID :  14522
公開日 :  2009年 12月25日
タイトル
[大館曲げわっぱの小判弁当箱
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新聞名
日刊工業新聞
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元URL.
http://mono-ch.nikkan.co.jp/column/aiyo/0912/
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元urltop:
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写真:
 写真が掲載されていました
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天然の秋田杉を使った大館の曲げわっぱ。薄く剥いだ木材を熱湯に浸け、柔らかくなったところで曲げて形作る。弾力のある秋田杉の美しい木目となめらかなフォルムの造形美だけでなく、軽くて丈夫といっ た機能性にも優れている。さらに吸湿性、殺菌効果、芳香によって、冷めてもご飯が美味しく傷みにくいことから、弁当箱やおひつとして古くから親しまれてきた。
10年以上、毎日おひつ代わりに 使い込んで内側にアクが浮き出した弁当箱(手前) 和の生活文化に造詣の深い、インテリアスタイリストの小山織氏。著書や雑誌などを通して、日本の優れた伝統工芸品や雑貨などを多数紹介してきた。
そんな小山氏が自宅で日々、愛用しているのが、曲げわっぱの小判弁当箱。曲げわっぱで有名な秋田・大館で、天然の秋田杉から作られた。10年以上、使い込んでいるため、杉のアクが染み出し内側が黒く変色している 。
 「これでご飯を保存すると、冷めてもとても美味しい。毎日、おひつ代わりに使っています」。
炊きたてのご飯の余分な水分を木が吸って、冷めても乾燥しないので、美味しいご飯が保存できる。木の香りが食欲をそそり、杉の持つ殺菌効果によってご飯が傷みにくいという。
白木にこだわるわけ 山桜の皮で仕上げた美しい「うろこ綴じ」 この弁当箱の作り手は、秋田・大館、柴田慶信商店の柴田慶信氏。曲げ物の魅力にひかれて、異業種から転身、職人の世界に飛び込んだ。誰にも師事することなく独学で技術を習得し、独自の曲げ物を作り上げた。
小山氏と柴田氏の出会いは、10年以上前になる。都内の百貨店で柴田氏が展示会を行うのを聞き付けて、小山氏が訪ねたのが始まり。
 「とにかく一度、ご飯を入れて食べてごらん」と言われ、米の美味しさを実感。以来、毎日、おひつとして愛用している。
「以前から柴田さんの曲げ物に施された、山桜の樹皮で仕上げた‘留め’の美しさにひかれていましたが、実際に使ってみて、これまで食べていたご飯とまったく違うことに驚きました。それ以来、ご飯の美味しさと、使い込 んだ味を楽しんでいます」。
造形の美しさだけでなく、独自の工夫による機能性も柴田氏の製品の特長。底と側板の継ぎ目が丸くなっているので、ご飯粒が入らなくて手入れが簡単。百貨店のお客様から、「隅の丸いおひつが欲しい」と言われ、大学 や技術者の協力のもと、ろくろの技術を取り入れて3年かけて開発した。
「ご飯を入れて使うものは、白木でなければ」というのが柴田氏の考え。最近、手入れのしやすさから、ウレタン樹脂塗装を施した曲げわっぱが増えているが、柴田氏も以前、弁当箱にウレタン樹脂を塗装していた時期が あった。ところが、自分で使ってみて、塗装した弁当箱のご飯が美味しくないことに気付き、それ依頼、白木にこだわってわっぱを作り続けている。
修理やメンテナンスが可能なのも白木の優れた点だ。
 「以前、高い所からうっかり蓋を落としてヒビが入ってしまい、ひどくがっかりしたのですが、修繕できることを聞いて、心底ホッとしたのを覚えています」(小山氏)。 表面がきれいに磨かれ、再び手元に戻ってきたとき、長く使うことで無二の品になることを実感。柴田氏の製品は、木に厚みを持たせているので、表面を磨いて長く使えるのも嬉しい。
使うことで増す存在感 チベットの遊牧民より譲り受けたバター入れ。5代に渡って使われたもの (写真:柴田慶信商店) 曲げ物は、世界各地で古くから作られてきた。アメリカのシェーカー教徒によるシェーカーボックス、スウェーデンの白樺のボックス、チベットのバター入れなど、さまざまな場所でさまざまな素材から曲げ物が作られ、何 代にも渡って生活の道具として使われてきた。
柴田氏はこうした曲げ物を、脚で探して集めてまわった。ドイツの貴族の帽子入れや、ナポレオン時代に使われていた栗の木の計量升など貴重なものばかりだ。こうして各地で受け継がれた曲げ物は、独学で技術を習得 した柴田氏の大切な道しるべとなった。
小山氏の弁当箱は、10年以上経った今も、自然の杉の香りがする。柔らかい手触り、木のテクスチャー、白木の気持ちよさは、使うことでますます増してきたという。
 「真新しいときの清浄無垢な姿も美しいけれど、使い込んだ古びたたたずまいは、力強さと味わいがあり、何物にも代え難い」。
毎日使うことで手に入れた無二の愛用品である。