ID :
11772
公開日 :
2009年 5月20日
タイトル
[ 飛ばすぞ木製グライダー 元「YS11」構造設計者 山下さん84歳
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新聞名
中日新聞
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元URL.
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2009052002000064.html
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元urltop:
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写真:
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岐阜県池田町の一戸建て住宅型有料老人ホーム「サンヒルズ・ヴィラ・アンキーノ」。この一室で、かつての航空機製造技術を遺産として残すプロジェクトが進んでいる。
計画の主は、住人の山下邦雄さん。複数の会社を経て、一九五四年に川崎重工業に入社。五〇-八〇年代にかけて自衛隊機などを設計、六四年就航した初の国産旅客機「YS11」ではエンジン回りの構造設計を担当し
たエリート技術者だ。
今は、妻のルリ子さん(81)と暮らす居宅の一室を寝室兼工房に改造。九十歳になる二〇一五年の初飛行を目指し、木製グライダーを作っている。
木製機を作るのは、十代から抱いていた「いつか自作のグライダーで大空を飛びたい」という夢の実現と、グライダーの木製構造の美しさを後世に残さなければならないという義務感からだ。
今やグライダーの機体素材は、軽く成形しやすい繊維強化プラスチック(FRP)。飛行機も金属とFRPが中心だが、かつてはどちらも木製だった。
「細い角材を曲げ、薄いベニヤ材と組み合わせて骨組みを作る技術は、木製機ならでは。しかし、現代の量産機の製作現場では、こうした技術はどこにもない」
「素晴らしい技術。ならば、昔を知る自分がやってみせ、後世に残そう」
同社退社後十四年間、中日本航空専門学校(同県関市)で講師を務めた後、当時の自宅近くの「かかみがはら航空宇宙科学博物館」(同県各務原市)の工房で一九九八年から製作を始めた。
三九年製の木製機の設計図を基に、現代の量産機の形に合わせた内部構造を設計。木を加工し、張り合わせる。二〇〇五年には、博物館の都合で工房が使えなくなったが、夢は持ち続けた。
「将来に備えて」と移住した池田町のホームで製作を再開。今は毎日五時間のペースで、主翼の骨組みを作る。来年から機体を組み立てる予定。ホームの協力で、両翼十三メートルの主翼を組み立てるスペースも確
保できた。「まだまだ元気でいないとだめですな」
七十代でグライダーのライセンスを取得。製作途中に白内障で左目を失明し、残念ながら自作の愛機で大空へ、とはいかないが、心は空をかけめぐる。
「グライダーはいいですよ。体全体で風を感じる。この感覚は地上では味わえない」
飛行試験が終わったら、機体は、製作の記録とともに、一般の人の目に触れるところに展示されることを望んでいる。「へえ、こんなふうに作っていたんだとか、何かを感じてもらえたら、うれしいですね」 (佐橋大)
<若い世代へ>物作りのきっかけに
若い人に、私と同じように木製のグライダーを作ってもらいたいとは思っていません。今の時代に木製グライダーなんて、あり得ない。技術を他に応用するといっても、あまり可能性はないでしょう。江戸時代のからくり
人形などを見て、私たちがその仕組みに関心を持ち、感動するように、私の飛行機も見て生かしてもらえたら、それで十分なんです。それで物作りが好きになるとか、何かのきっかけになれば、いいですね。