ID :
9693
公開日 :
2008年 12月 4日
タイトル
[上場しない「長寿企業」が 元気な理由 金剛組
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新聞名
President
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元URL.
http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2005/20050214/930/
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元urltop:
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写真:
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人を大切にする経営の効用
日本の長寿企業も働く人々を大切にしている。人は、2つの意味で大切である。1つは、予期できぬ危機への対応のためには人が必要だからである。長寿企業は、長い歴史の中で、大きな危機に何度も遭遇している。こ
うした危機には、事前に準備をしておくということが難しい。このような危機に対応するには、強靱な人を残しておくことが必要である。中国には、「来年のことを考えれば金を残せ、10年先のことを考えれば土地を残せ、
100年先のためには人を残せ」という諺があると聞いたことがある。何が起こるかわからない将来のためには、資産ではなく人材を残しておくことが不可欠である。
息子が有能でなければ、若隠居をさせ、養子を取るということも行われている。それでもこの人物が誤った判断をしてしまうことがある。金剛組の金剛喜定は、明治初期に年少の息子に遺言を残している。それが同社
の社訓として受け継がれている。「どんなことがあっても親類が集まり、相談の上、万事取り計らいをし、自分勝手なことはしないようにしなさい」という注意を与えている。
企業の独自の力の源泉となるのは、企業の中に蓄積された技術やノウハウである。それは多くの場合、人によって担われる。独自能力を残すためには人を育てなければならないのである。
人を大切にするというのは人を甘やかすことではない。内部で厳しく鍛え、時には内外のライバルと競わせながら厳しく育てることを大切にするということである。清酒醸造業の場合は、杜氏集団に技術を担ってもらう
ことによって技術を伝承している。杜氏はいわゆる常用従業員ではないが、社外にいることによって競争原理が働くし、従業員以上に技術に対する真剣さを持っている。
人に関する長寿企業の共通点は、人の弱さをよく知っていることである。それがもっとも端的に表れているのは、後継者選びと資産の継承についてである。長寿企業の多くでは、企業の経営権を一人の男子に継承させ
るという慣行を持っている。この慣行はいわゆる田分け、つまり資産の分散をさけるという効果をねらったものであるだけでなく、複数の兄弟が継承した場合に生じがちな内紛をさけるという狙いもある。「兄弟は他人の
始まり」ということばにもあるように、兄弟の間ではもめ事が起こりやすいのである。
経営史家の故・宮本又次教授は家訓を積極面と消極面に分けておられる。消極面では、奉公・体面・分限の3意識について、人間の弱さについての警告を与える家訓が多い。
日本の長寿企業では、事業の多角化はあまり行われていないので事業部制という形態での連邦型経営は行われていないが、現場の自立的仕事集団を尊重するという意味での連邦的経営は行われていた。
金剛組では、棟梁は力をつけると自らの組を組織し自立するという慣行がある。竹中でも、力のある棟梁は別家として独立することを許される。竹中の別家や金剛組の組はお互いに競い合いながら技術を磨いていく
のである。竹中家では、この別家が脇棟梁となり、竹中家を支えるという構造が生み出されていた。1899年に竹中の神戸進出が可能となったのは、別家が呼び寄せに応じたため神戸でも左官や大工が確保できたからで
ある。
このような小集団による技術の伝承は、上述した杜氏集団でも行われている。相撲の部屋、花街の置屋も技術や技能を伝承するための小集団である。社会学者や教育学者の間では、こうした小集団は実践共同体と呼
ばれているが、なぜ実践共同体が技術や技能の伝承に向いているのか。この問題についての考察は別の機会に譲るが、深く考える価値のある問題である。
上場が企業の寿命を縮める
長寿企業の興味深い共通点は上場をしていないことである。一般的には、株式会社は、企業を永続的事業体として存続させるための重要な手段だといわれている。長寿企業は、法制度としての株式会社の制度を採用
はしているが、そのもっとも大きな長所である上場による資金調達はしていない。竹中工務店は、総合的建設会社にまで成長しているが、上場はさけている。灘の企業の中で唯一上場していた忠勇は、独立企業として
は存続できなくなり、丸金醤油(現・マルキン忠勇)の傘下に入った。上場は企業の長期的な存続にとってかえってマイナスだといえるのかもしれない。なぜそうなるのか。上場によって資金を得てしまうと、無駄な投資を
したり無理な拡張を図ったりしがちである。企業の中で始末ができなくなってしまうのだろう。駿河屋の悲劇への道は上場の段階から敷かれていたというべきなのかもしれない。
日本の長寿企業の多くは非上場企業である。上場して資金を得るという財務政策は採られていない。財務政策に関しては保守的なところが多い。資金の調達よりも、資金の始末が重視されていたのである。金を大切に
使うことである。始末は吝嗇ではない。効果を考えながら、限られた資金を大切に使うことである。そのように自己資金を大切に使っておれば、資金需要が少なくて済むので、融資や投資という形の外部資金に頼らなくて
済む。始末は近江商人の知恵でもある。京都の外与や西川は、近江商人である。