ID :
9388
公開日 :
2008年 11月17日
タイトル
[なにわ人模様:ミニチュア宮大工・川本正勝さん
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/osaka/news/20081116ddlk27070250000c.html
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元urltop:
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写真:
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忍耐と根気、プロ顔負けの達人--川本正勝さん(65)=羽曳野市
◇重文寺社などそっくり“再現” 「暇と無駄を有意義に、急がず慎重、丁寧に」
法隆寺、唐招提寺(いずれも奈良)に東寺の五重塔(京都)。世界遺産にも指定されている貴重な文化財を、木材の組み込みから屋根のそり具合まで丹念に再現する“ミニチュア界の宮大工”。「奈良と京都の国宝や重文
に指定されている建築物を、すべて制覇したい」と笑顔を見せる。
ミニチュア作りを始めたのは、母親がひざを痛め介護施設に入所した約10年前のこと。幼いころ、大阪市旭区で母親が営んでいた小間物屋や、当時暮らしていた都島区の実家の建物が何度も話題になった。そこで、廃
材を使って家族の思い出が詰まった建物を再現すると、懐かしい風景に母親は顔をほころばせた。
以来、ミニチュアの魅力にとりつかれ、すでに約100点を制作した。人にプレゼントしたり、寄贈したりするので、手元には半分程度しか残っていない。材料はギフト用のそうめんが入った木製の箱など廃材が主。カッタ
ーで念入りに加工し、何種類もの部材を一つ一つ作り上げる。
法学部出身で建築はまったくの素人だが、宮大工の技を記した技術書を何冊も読みあさり、木材を組み上げていく手法を独学で習得した。「以前、本物の宮大工に作品を見てもらったことがありますが、『よく基礎ができ
ていますね』と驚かれました」。今では、プロも認めるほどの実力なのだという。
子どものころから大工へのあこがれはあった。父親はタクシー会社を経営しており、幼いころ、へこんだタクシーのボンネットを大工が器用にたたいて修理するのを見て、「こんな職人になりたい」とひかれた。
大学卒業後は家業のタクシー会社を経て、損害保険会社に勤務し、59歳で退職するまで、転勤で東北から九州まで全国各地を転々とした。「休みのたびにいろいろな寺社を巡り、木材がどういうふうに組まれているか
を確かめるのが楽しかった」と言うから、子ども時代の夢はずっと心に持ち続けていたわけだ。
退職後、地元の羽曳野や藤井寺にある寺社をはじめ、京都や奈良に何度も足を運んでデッサンを繰り返し、木材の長さや太さも調べて歩いた。1日平均6時間、1カ月に1作品のペースで作業に励む。現在、“建築中”
なのは、実物も復元が進められている奈良・興福寺の中金堂だ。
モットーは「暇と無駄を有意義に、急がず慎重、丁寧に」。忍耐と根気のいる作業はこれからも続く。【