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木造建築のネツト記事
ID :  7119
公開日 :  2008年 4月10日
タイトル
[写真/木目調シートもあるぞ──興福寺貫首・多川俊映
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新聞名
日経ネット関西版
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元URL.
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news003740.html
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元urltop:
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写真:
 
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私の勤め先も住まいも、ほとんど木と紙とでできている。いわゆる木の文化の、真(ま)っ只中(ただなか)で生活しているわけだ。
 若い時分、晩夏の1日は障子張りだった。洗って骨だけになった障子を上下逆さにして、上つまり下の段から新しい紙を張っていく。そうして張り終ると、さっと霧を吹く。すると、紙がピンと張って、気持ちよく仕上がるの だ。
 けっこう手際よくやったので、先々代の貫首などは、――それやったら、どこでも居候できるで、と珍しくほめて?くれた。
 木の文化は、とにかく手間がかかる。木造の堂塔は、50年で小修理、100年から150年で半解体の修理が必要だ。
 そして、200年も経てば、すべての材をほどき、腐った部分を根つぎして、また一から組みなおすのだ。要するに、修理々々の連続である。
 しかし、そうして手間ヒマをかける中にこそ、木の文化の人々の〈ものをいとおしむ心根〉が育まれてきたのだと思う。
 それが昨今、どこを見渡しても鉄筋コンクリートだ。その耐久年数は70年とかいうけれど、そこまでいかないうちに叩(たた)きつぶして新しいのを建てるから、本当のところはわからない。が、いずれにせよ、こちらは修 理ならぬ破壊の連続といってよい。
 修理を施しながら、そのものと永くつきあっていくのと、ちょっとダメならぶっ壊して新しいのを調達するのとでは、そこに生きる人間の感性・嗜好(しこう)も、それは随分(ずいぶん)とちがうだろう。
 ――と思うのは、案外ことの真相からズレていて、私たちは、膨大な年月、木に親しみ・木とともに生きてきた人々の末裔(まつえい)だから、心の深層は相変わらず、木への愛着にあふれているらしい。
 たとえば、木目調へのモウレツなこだわりである。ちなみに、グーグルでインターネット検索すると、66万件ヒットするが、そこには、――なにもそこまで、という商品もわんさとある。
 木目調壁紙、木目調マット、木目調テーブルなどは日常風景だが、木目調ホットカーペット、木目調扇風機、木目調冷蔵庫…と、木目調は終らないのだ。木目調物干し竿(ざお)というのもある。これは、なにもそこまでの 商品だろう。
 木目調ロッカーには、「開閉時や衝撃による金属音を防ぎます」というコピーが添えられている。小首をかしげたくなるが、木目調内装の特別仕様車なぞというすごいのもある。これも霊柩車(れいきゅうしゃ)じゃあるま いし、である。
 もとより、木目調シートというのもある。全国津々浦々どこのお花見にも、さぞこの木目調シートが用いられたことだろうと思いきや、実情はまったくちがうのだ。桜の木の下に敷かれる定番は、なぜか工事現場のあのブル ーシートである。
 木目調にこれほどまでにこだわるのに、どうして花見はこうもお粗末なのか。ほんのひと時だからなのか。――つかの間の花見だからこそ、下に敷くものも、緋毛氈(ひもうせん)はともかく、ちょっと凝ってみたいではな いか。