ID :
6202
公開日 :
2008年 2月 2日
タイトル
[集合住宅のインフィル……SI住宅の可能性
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新聞名
朝日新聞
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元URL.
http://www.asahi.com/housing/column/TKY200802010226.html
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元urltop:
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写真:
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SI住宅という考え方もその呼び名も、日本の住宅業界に随分と定着してきたように思う。建築をスケルトン(躯体)とインフィル(内装・設備)に分けて住まいのあり方を見直そうとSI住宅の提唱が始まったのは
、10年くらい前のことだろう。経産省による「次世代街区プロジェクト(1996~2000年)」で初めてこの呼び名が使われている。
コンクリートのスケルトン(バウハウス校舎)
石のスケルトン(スペイン)
木のスケルトン(京都)
SI住宅は、1960年代のオランダでうまれたオープンビルディングという建築計画理論を基に、日本固有の建築文化に合わせて生まれた日本オリジナルの住宅形式と考えていい。
オープンビルディングとは、マスハウジング(大量供給住宅)が供給側の都合でつくられて画一的な居住空間になりがちだから、住まい手のニーズをより尊重し反映できるような住まい手に開かれた家づくりをしよう、そ
してその考えをさらに都市レベルにまで広げて街づくりをしようというとても実践的な建築計画理論である。その理論の骨格を成していたのが、建築をスケルトンとインフィルに分けようという考え方だった。
だから、SI住宅でも、住まい手の意思を尊重した住まいづくりが一番の特徴となっている。スケルトンは頑強で動かせないけど、インフィルは取り換えや移動を簡単にできるようにしてあるから、住まい手のライフスタ
イルの変化に応じて、また住まい手の多様なライフスタイルや家族形態に合わせて間取りを変えるなど、居住空間を簡単にリニューアルしやすい、そこにSI住宅の魅力はある。
そして、スケルトンは、100年単位で建ちつづける程に丈夫で長持ち、もちろん地震にも強いから安心して次世代にも引き継いでいくこともできる。スケルトンをより頑強なものとしたところに、地震国日本ならではの
オープンビルディング、SI住宅のもうひとつの大きな特徴がある。いつ起こるかわからない大地震や耐震偽造への不安から、最近のSI住宅への関心は、インフィルの可変性よりむしろその頑強なスケルトンの方にあるよ
うだ。
SI住宅のさらなる課題は、住まいとしての美しさをいかに実現するかだろう。いかに建築計画理論や建設技術が優れていても、美しく心地よくなければ世代を超えた住まいとはならない。SI住宅の魅力をさらに高める
には、そのインフィルの可変性とスケルトンの頑強さに加え、さらに住まいの美意識をいかに搭載するかのように思う。
そこで、前回のこのコラムでは、伝統民家のように木のスケルトンを思い切り室内にあらわし、日本人の美意識を醸成してきた「木のぬくもり」をふんだんに感じさせる住まいづくりをしてはどうだろうと提案している。日
本でも西欧でも、伝統民家の美しさは、木のスケルトンの美しさにあった。その美しさこそが、数百年も住まい継がれることを可能にしたといっていい。
「木のぬくもり」のある家というと、すぐログハウスや間伐材を使った別荘などのリゾート感覚のセカンドハウスがイメージされてしまうが、日々の日常生活に「木のぬくもり」を取り戻せないものだろうか。SI住宅は、日常
の住まいに「木のぬくもり」を復活させ、新たな住まいの美意識を醸成させていく可能性に満ちているように思う。ただ、それは戸建住宅の場合である。
コンクリート造など耐火構造の集合住宅の場合はどうであろう。SI住宅は、その出自からもマスハウジングつまり大規模な集合住宅にこそ、その本来の有効性を発揮するはずである。ここで、あらためてSI住宅の成り立
ちを整理しておこう。
スケルトンは構造躯体だから、取り換え不可能で動かせないもの。インフィルは、内装・建具や設備配管機器類だから、取り換え可能で動かせるもの。そう考えていい。
ただ、一般的な建築では、インフィルは取り換え可能だけども固定されていて動かしにくいものがたくさんある。たとえば、間仕切り壁がそうだろう。また、設備配管類にいたっては、スケルトンの中に埋め込まれて取り換
え不能なケースもあり、それが建築の寿命を短くしている一番の原因になっている。だから、建築を構成する部位、部品の中で、スケルトン以外のすべてのインフィルを取り換え可能とした住まいが、SI住宅ということに
なる。
あるいは、SI住宅のインフィルは、設備配管類を除いて、限りなく家具や引き建具に近づいていくといってもいいかもしれない。たとえば、収納家具は間仕切り壁(ストレージウォール)の役割も果たし、引き建具は動く壁
になる。そのとき、設備配管類は、配管スペースにきちんと収まっていて表には出てこない。もちろん、それら配管類を露出させてインテリアデザインの一部とすることもできる。
集合住宅の特性は、専用部と共用部があることだろう。その一般的な成り立ちは、バルコニー側と外廊下側の二方向が開いた直方体の中が専有空間となり、それらが上下左右で重なり合っている。そして、それら直方体
をつないでいるのが共用部だ。その直方体自体がスケルトンであり、その中身がインフィルといっていい。また、スケルトンとインフィルの設備配管類の一部は住人みんなで使う共用部となり、インフィルのほとんどは専
有部となる。
限りなく家具や引き建具に近づいていくSI住宅のインフィルを思うとき、SI住宅の思想を取り入れた集合住宅のインフィル、つまり専有空間は、日本の伝統家屋の空間の成り立ちに限りなく近づいていくとはいえまいか。
もちろん、スケルトンとしての木の柱や梁はない。
かつて、日本の伝統家屋では、四季折々に家具や引き建具のしつらえを変え、生活の知恵を育みながら住まうことを楽しんでいた。そして、そこには確かな生活の美意識があった。SI住宅は、集合住宅のインフィルに
おいて、そうした生活の知恵と美意識を日本の現代社会に育む可能性を垣間見せてくれているように思う。