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ID :  5228
公開日 :  2007年 11月 4日
タイトル
[「こみせ」に流れる日常 青森・黒石(くろいし)
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://www.yomiuri.co.jp/tabi/domestic/japan/20071105tb06.htm?from=os1
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元urltop:
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写真:
 
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あまりに観光地として整備された町は、案外つまらない。博物館の展示のように、ガラス越しに見ている気がする。
 黒石市の「こみせ通り」が面白いのは、江戸時代の古い町並みが、そこだけ突出せず、実に何気なく存在していることだ。
 弘南鉄道の黒石駅を降りる。小さな町の、ごく普通の風景を歩いて10分ほど。気付かないうちいつの間にか、珍しい「こみせ」になっていた。
 こみせとは、木製のアーケードのことだ。等間隔に並んだ木の柱に、ひさし状の屋根が載っている。「中町こみせ通り」には、道の両側に100メートルにわたって、こみせのある古い町並みが続く。
 「昭和30年ごろまでは、こみせが相当残っていて、町の人は学校にも役所にも、傘を持たずに行けたんです」。こみせ通りのボランティアガイド、小野せつ子さん(57)が言う。
 幅1・6メートルほどの屋根付きの歩道は、夏の日差しや冬の雪を防ぐだけではない。柱の列からのぞく家並みの美しさ。人もゆっくり、のんびり歩いている。午後には柱の影が、さざ波のようなしま模様を描き、何ともい えない雰囲気となる。
 町が出来たのは、江戸前期の1656年。弘前藩から分知された黒石津軽家の町割りが最初だ。こみせもこのとき作られたと伝えられる。2年前に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
 立ち並ぶ屋敷の中でもとりわけ立派なのが、「高橋家住宅」。1763年ごろ建造の津軽地方に典型的な商家で、国の重要文化財に指定されている。
 今も14代当主の高橋幸江さん(68)が住み、中で喫茶店を開く。風の吹き抜ける通り庭でお茶を飲み、高橋さんに「こみせは私有地なんです」と聞いた。
 てっきり公道だと思っていたので驚いたが、税金はそれぞれの家が払っているとのこと。「皆さんに自分の土地を使っていただく。黒石商人の心意気です」  他に、母屋が230年前建造という市文化財「鳴海家住宅」や、直径2メートルを超える巨大な酒林がある「中村亀吉酒造」などが並ぶ。だが、周囲に溶け込み、観光地として「作った」感じがしない。もちろん、津軽三味線 のライブが行われる土産物店兼食堂の「こみせ駅」など、観光施設もそこそこある。その「そこそこ」感がとてもいい。
◎  焼きそばが名物というのも、黒石らしい。太めで平らな独特の麺(めん)が「黒石焼きそば」で知られる「焼きそばの町」。商工会議所の三上昌一さん(43)によると、市内で70軒以上の店があり、「焼きそばマップ」も作ら れている。
 だが「つゆ焼きそば」には驚いた。そばつゆやラーメンのスープに、焼きそばが入っているという。マップに載っている「居酒屋すずのや」で食べてみた。
 和風のスープに浮かぶ黒石焼きそば。具はキャベツ、タマネギ、揚げ玉。ラーメンみたいだがソース味で、確かにこれは焼きそばだ。意外にうまい。
 「中学のころ、たまり場だったお店で出していたんです。そばつゆに入れた方が、量が増えて腹持ちがいいっていうんで。それが懐かしくて、当時食べていた連中が大人になって復活させたんですよ」。店主の鈴木民雄 さん(58)の説明だ。
 珍しいが、いかにも日常っぽい。この町にピッタリな気がした。
◎  町を出て、車で郊外へ向かう。黒石は温泉郷で、山間に温泉地が5か所ある。その一つ、青荷温泉に泊まった。
 国道を離れ、険しい山道を6キロ。実に山深い場所に宿があった。電気は非常灯など最低限しか通じていない。明かりは9割方がランプ。だから、「ランプの宿」という。
 泊まってみると、ランプの明かりは、思ったより暗い。最初はほとんど見えない。テレビはないし、本も読めない。携帯も通じない。だんだん目は慣れてくるが、暗いには違いはない。
 食事を終えると温泉に入る以外、何もすることがない。何も出来ない。だからこそ、ゆっくり出来るともいえる。
 こみせの「日常」の後には、こんな「非日常」が味わえる。何とぜいたくなことだろう。(小梶勝男、写真も)  (来週は島根・雲南市)  ●あし JR東京駅から新幹線で盛岡まで2時間20分。高速バスに乗り換え弘前バスターミナルまで2時間10分。弘南鉄道弘前駅から黒石まで30分。
 ●問い合わせ 黒石観光協会=(電)0172・52・3488、http://www.jomon.ne.jp/~kkk/index.htm (2007年11月5日 読売新聞)