ID　2190

登録日　 　2006年 11月30日

タイトル

９８歳の木立と犬たち＠神宮外苑いちょう祭り

新聞名

読売新聞

元URL.

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/sketch/20061130tb03.htm?from=os1

元urltop:

写真:

　

神宮のイチョウ並木は黄金色、のはずが今年はなんだかまだ青い。お祭りに集まった犬たちの方に目が行ってしまいました。
　毎年、１１月下旬から１２月はじめにかけて、東京・明治神宮外苑は華やかに輝きます。そう、東京名所の１つ、青山通りから絵画館に向かって延びる直線道路約３００ｍのイチョウ並木が黄葉するんですね。なんたって その数１５０本近く。３０ｍ近い高さでずらりですもの、豪華さ比類なし。毎年、この時期「神宮外苑いちょう祭り」が開かれてそぞろ歩きの人でにぎわうのです。
　で、今年もその輝きをあじわうべく１１月下旬の週末、出かけてみたのですが…。なんだ、まだ青みが残っているぞ。インターネット情報によれば、この並木、４年に一度、円錐型に刈り込みを入れる。今年はその直前だ からボリューム感が楽しめる、のだそうですが、たしかに「うっそう感」は十分なのに、いや、それだからこそ、緑がかった木の下はまだ「小暗き森」のよう。あの、青空を背にからりと抜けたような明るい黄金色がない…。
　地球温暖化、つまりわが消費の所業のツケなのでしょうか。気になりますが、一方でこのイチョウたちが９８歳と知ると、その「青々と繁るさま」が心強くもあります。明治４１（１９０８）年に新宿御苑にあった木から採った 種（ギンナンのことね）を代々木の苗圃で育て、６歳の時に移植したのだそうな。日露戦争も太平洋戦争も知っているおばあちゃん。いやごめん。イチョウには雄雌があったのでした。おじいちゃんとおばあちゃんの壮大 な行列です。
　で、おじいちゃんとおばあちゃんの黄金の輝きは師走に入ってからまた見に来るとして、今回はせっかくのお祭りです、人間観察に徹することといたしましょう。と、これがけっこうおもしろい。毎年見ていて気がついたの ですが、だんだん「年寄りと犬」が増えてますね。このエッセイ、お正月に軽井沢の「少子多犬化」を報告しましたが、そうか、あれ全国規模の現象だったのですねえ。
　感心するうち、奇妙な自転車現る。６０がらみのおっちゃんが、手作りとおぼしき小振りのリヤカーをつけて走ってきました。リヤカーにはお洋服を着たダックスフントがちょこんと乗り、脇に大きなラブラドールが併走し てる。と人混みにさしかかったおっちゃんは自転車を降りてリヤカーの後部板をはずしました。待ってました、と飛び乗るラブ。え、これ２匹のお散歩送迎専用車なわけ？　ちょっとあきれつつほほえんでしまう人々を尻目 に、「専用リムジン」の１人と２匹は走り去っていく…。
　多数派はやっぱり飼い主の腕に抱かれた小型犬ですね。チワワにプードル、ジャックラッセル、e.t.c。きれいなトリミングのせいか、ぬいぐるみなのかナマ犬なのか一目では分かりません。れれ？と思っていたらこっちを 向いた、あ、生きてるのね、という感じ。しかもそれを抱いているのはなぜかおっちゃんに多い。おばちゃんおねえちゃんのご同伴犬は、飼い主とファッション・コーディネートしている印象ですね。お出かけの際は、あれ これ組み合わせを考えるのでしょうか。
　と思えばこちらには黒い小山が２つ。巨大なクマ？　いえいえ、ニューファンドランド犬ですね。手綱を引いたおっちゃんに「何キロ？」と聞いたら、たぶん大勢に聞かれるんでしょうねえ、「こっち（やや小さい方）は雌 で５５ｋｇ、こっち（でかい方）は７０ｋｇ」とすらすら教えてくれました。泳ぎが得意で、たしか北米では海難救助で働くのだと読んだことがありますが、溺れているところにこれが現れたら、人間は２種類に分かれるでしょう。
喜んでしがみつく人と逃げ出す人。私なんかこの場でも背中に乗ってみたい～。そんな欲望の視線を感じてか、陸（おか）の上の巨大な体躯は、でろりんはっはと暑そうです。
　日本人はみんなだんだん犬馬鹿になる…。と、連れて行ったわが家の犬（落ち着きがないから一目でナマ犬と分かる）の頭をなぜながら思ったことでした。